質問
10ヶ月分の家賃を滞納している借主がいますが、この借主は、現在、警察に逮捕され収監中とのことです。
賃貸借契約書には、借主が刑事事件を起こした場合、貸主は賃貸借契約を解除できるという条文がありますが、この条文を根拠に契約を解除することはできるでしょうか。貸主の意思としては、滞納賃料回収よりもとにかく入居者に退室していただきたいとのことです。
回答
1 契約書記載の条項を根拠に契約解除・明け渡しを請求できるか。
形式的に契約書記載の条項に該当しても、借主が争う姿勢を見せた場合、裁判所は、「その借主のした行為が、貸主・借主間の信頼関係を破壊する行為といえるかどうか」によって、契約解除の有効性を判断します。
本件では、確かに借主が刑事事件を起こして刑務所に収監中とのことですが、どのような罪名で服役中なのかが分かりませんし、また、その借主が物件に居住していた時に、粗野、乱暴な言動を行っていたということもないようですから、貸主と借主の信頼関係が破壊されていると言えるかどうかは疑問なところがあります。
2 貸主が取ることのできる措置について
本件の借主は家賃を8ヶ月分も滞納していることから、貸主は、債務不履行(賃料不払い)を理由に契約を解除することができます。
まずは、貸主から借主に対し、滞納賃料を1週間以内に全額支払うよう催告する通知書を送って(どこの刑務所か分かればその刑務所に宛てて送ります)、期限内に支払いがない場合には賃貸借契約を解除する旨の意思表示を行います。
期限を経過しても支払いがない場合、契約は解除されたことになりますので、貸主は、物件の明け渡しを求める訴訟を起こします(なお、相手が服役中でも裁判は起こせます)。
そして、裁判の結果、物件の明け渡しを命じる判決が出ますので、その判決をもとに、建物明け渡しの強制執行を申し立てます。
強制執行手続きの中で、執行官及び執行業者が、物件内に残っている荷物を適法に処理してくれます(保管のうえ売却したり、廃棄したりします)。
このように、貸主は、借主が服役中であっても、契約を解除して、物件の明け渡しを実現することができます。