質問
下請事業者の成長のために、当社開発設計部門で下請事業者の実習生を受け入れ、その実習生が製品図面を完成させました。この図面の所有権は誰のものになるでしょうか。また、当社図面として扱うためには、どのような留意点がありますか。
回答
実習生が作成した図面ですと、著作権は実習生にあります。
図面の著作権が会社に所属するというためには、下記の2つの方法があります。
1 職務著作
下記の条件がある場合、実習生の使用者(貴社)が著作権者となることができます。
① 法人(貴社)の発意に基づくこと
著作物(今回の図面)を作成するかどうかが、法人の判断に係っていること。
② 著作物を作成した者が法人の業務に従事するものであること。
「業務に従事する者」にあたるかどうかは、「法人の指揮監督下において労務を提供するという実態にあり、法人がその者に対して支払う金銭が労務提供の対価であると評価できるかどうか」によって判断すべきであるとする判例があります(ただし、雇用関係になければならないとする学説もあります)。
今回の場合、貴社ではなく下請事業者が給料の支払いをしているようですが、貴社と下請事業者との間の取り決めでそのようになっており、下請事業者は著作権を主張する意図はないでしょうから、この点の条件はみたされているとされる可能性はあると思います。
③ 職務上作成されたものであること。
業務に従事する者に直接命令して作成したものであるほかに、業務に従事する者の職務上、予定又は予期される行為も含まれるとされています。
④ 法人などの名義で公表するものであること
法人の名義で公表することが予定されていればよいとされています。
上記の①~④の条件が満たされれば、図面の著作権は貴社に属することになりますので、この4つの条件を満たすような職場環境にしておくことが考えられます。
次に、著作権が実習生にあることを前提として、実習生と下記のような著作権譲渡の契約をしておくことが考えられます。
A(すでに作成されている図面の著作権を譲渡する場合)
乙は甲に対し、・・・の著作権を譲渡する。
本著作権には、著作権法27条、28条に規定する権利も含むものとする。
本著作権は、乙が甲の実習生であることにかんがみ、本契約締結時に、無償で乙から甲に移転するものとする。
乙は、甲又は甲が指定する第三者に対し著作者人格権を行使しない。
B(今後作成する図面の著作権も譲渡する場合)
乙は甲に対し、・・・の著作権、その他、乙が甲での実習期間中に作成した図面の著作権を譲渡する。
本著作権には、著作権法27条、28条に規定する権利も含むものとする。
本著作権は、乙が甲の実習生であることにかんがみ、・・・の著作権は本契約締結時に、乙が甲での実習期間中に作成した図面については、図面の作成と同時に、無償で乙から甲に移転するものとする。
乙は、甲又は甲が指定する第三者に対し著作者人格権を行使しない。
Bの方が便利なのですが、通常、著作権の譲渡は、すでに成立している著作権について行われるものなので、Bのような今後発生する著作権まで含めるのは、その範囲が広すぎると無効になる可能性もあります。