下請法は、通常支払われる対価に比べて著しく低い下請代金の額を不当に定めることを禁止しています。これが「買いたたきの禁止」です。この記事では、具体的にどのような行為が「買いたたき」に当たるのか、最新の違反事例とともに解説します。
下請法の禁止する「買いたたき」とは
下請法(下請代金支払遅延等防止法)は、親事業者による「買いたたき」を禁止しています。
では、この「買いたたき」とはどのような行為のことでしょうか。
下請法の条文では下記のように定められています。
下請法第4条1項5号
下請事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額を不当に定めること。
引用元:https://laws.e-gov.go.jp/law/331AC0000000120
上記条文をざっくりと言い換えると、「親事業者は、下請代金の金額を決定する際に、不当に安い金額を押し付けてはならない」ということです。
ポイントは、①「通常支払われる対価」に比べて「著しく低い下請代金の額」を定めることと、②下請代金の額を「不当に定めること」の2点になります。
以下、少し詳しく解説します。
①「通常支払われる対価」「著しく低い下請代金の額」とは?
まず、下請法のいう「通常支払われる対価」というのは、言ってしまえば一般的な取引価格である「市価」のことを指すとされています。
下請事業者が属する取引の市場(取引競争が行われている経済的な範囲とでも言い換えられるでしょうか。)において、別の事業者に同じ商品・仕事を発注した場合に、いくらの値がつくかということです。
この金額に対して、「著しく低い」金額を下請代金の額と定めた場合に、下請法上の「買いたたき」に当たる可能性が出てくるということです。
なお、市価を把握することが難しい場合には、当該下請事業者との従前の下請取引を参考にすることもあるようです。
②「不当に定めること」とは?
次に、下請法のいう「不当に定めること」とは、主として親事業者と下請事業者の間で十分な協議が行われていないことを指していると考えられます。
一方的に下請代金額を通告して適用することはもちろん、交渉自体は行ったものの、コスト増に関する検討を全くすることなく価格を据え置いてしまったり、何か圧力をかけて親事業者に有利な価格を了承させたりといったような場合も、この「不当に定めること」に該当してくるものと思われます。
協議、交渉の内容やプロセスを重視していると言えるでしょうか。
交渉が充実していないということは、親事業者がその地位を利用して、親事業者に有利な下請代金の額を下請事業者に押し付けているという状況にも繋がるわけですから、下請事業者の保護の実現のための重要な要素になっていると思われます。
公正取引委員会の考える判断要素
上記のような発想をもとに、公正取引委員会では、下記のような要素を総合的に判断して、「買いたたき」に該当するかどうかを判断しているとのことです。
「買いたたき」の判断要素
(ア) 下請代金の額の決定に当たり、下請事業者と十分な協議が行われたかどうかなど対価の決定方法
(イ) 差別的であるかどうかなど対価の決定内容
(ウ) 「通常支払われる対価」と当該給付に支払われる対価との乖離状況
(エ) 当該給付に必要な原材料等の価格動向
引用元:「下請取引適正化推進講習会テキスト(令和6年11月版)」
なお、下記記事でも「買いたたき」に関する解説や具体例を紹介しています。
よろしければご参照ください。
今回はこの後、「買いたたき」に関する最新の勧告事例を紹介します。
下請法違反となる「買いたたき」とは?
下請法で禁止されている「買いたたき」の概要、「買いたたき」該当性の判断要素、「買いたたき」に当たる具体例にはどのようなものがあるか、令和4年における最新の動向についてなど、弁護士が分かりやすく解説します。
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「買いたたき」に関する最新の勧告事例
それでは、「買いたたき」に関する具体的な勧告事例を紹介いたしましょう。
どちらも令和6年に公表された最新の勧告事例です。
⑴ 株式会社KADOKAWAに対する勧告
令和6年11月12日、公正取引委員会は、株式会社KADOKAWA(以下、「KADOKAWA」といいます。)および株式会社KADOKAWA LifeDesign(以下、「LifeDesign」といいます。)に対して、両社が下請法上禁止されている「買いたたき」を行ったとして、勧告を行いました。
参照:公正取引委員会HP「(令和6年11月12日)株式会社KADOKAWA及び 株式会社KADOKAWA LifeDesignに対する勧告について」
KADOKAWAは、東京都千代田区に本社を構える大手の出版・総合エンターテインメント会社で、文庫・文芸書やコミック・ライトノベル、児童書・学習参考書等、様々な書籍を出版しています。
皆さんも一度はKADOKAWAが出版する書籍・雑誌を手に取ったことがあるのではないでしょうか。「角川文庫」は有名なレーベルですね。
資本金も406億円(2024年11月15日現在)と膨大です。
今回の勧告で問題になったのは、KADOKAWAおよびLifeDesignが発行している「レタスクラブ」という雑誌に関する下請契約です。
雑誌を発行するには様々な記事を用意しなくてはならず、その製作に多くの人が携わっていることは想像に難くないことと思います。
そして、その携わる人の中には、記事の作成及び写真撮影業務の委託を受けている下請事業者(いわゆるライターやカメラマン)がいました。
雑誌「レタスクラブ」は、もともとKADOKAWAが発行していた雑誌でした。
KADOKAWAは令和5年1月、上記のような業務を委託する際の発注単価を引き下げる旨を、下請事業者らに通知しました。
引き下げの理由は、「レタスクラブ」の販売収入や広告収入が減少している一方、出版・流通にかかるコストが上昇しているため、収益改善を図りたいといったKADOKAWA側の事情によるものです。
また、この引き下げについて、KADOKAWAは下請事業者らと十分な協議を行うことはなく、一方的な決定だったということです。
この通知により、下請契約の発注単価は、それまでの単価から約6.3~39.4%引き下げられました。
その後、令和6年4月1日、「レタスクラブ」の発行事業は、吸収分割によってLifeDesign(当時の商号は「株式会社毎日が発見」)が承継することになりました。
ここで単価の見直しや下請事業者との十分な協議があれば良かったのですが、LifeDesignは上記のとおりKADOKAWAが一方的に決定した単価を、そのまま踏襲してしまいました。
このKADOKAWAおよびLifeDesignが行った下請代金額の一方的な決定が、「買いたたきの禁止」に反するとして、令和6年11月12日、公正取引委員会は2社に対して勧告を行いました。
従前のものから約39%も単価を下げた場合、市価に比べて著しく低廉になる可能性は高いと思われます。
一方で、約6%程度の引き下げの場合、著しく低い下請代金の額になるかどうかはそれだけでは判断が難しいところです。
しかしながら、上記でも述べた通り、「買いたたき」に当たるかどうかの判断には、その価格の決定プロセス(十分な協議が行われたか等)も重要な要素となってきます。
本件では、KADOKAWA側の事情により、KADOKAWAの一方的な決定によって、従前と同種・同等の仕事の依頼であったとしても、その下請代金額が下げられているという事情が重く見られ、「買いたたき」に該当すると判断されたのではないかと考えられます。
ちなみに、「買いたたきの禁止」の勧告事例は、今年に入ってからは次にご紹介する株式会社ビッグモーターらの件に続いて2件目なのですが、その以前には令和5年に1件(これも後述します。)、その前は平成26年に1件と、実はあまり頻繁に生じているものではありません。
しかしながら、昨今あらゆるコストが上昇しており、そのしわ寄せが下請事業者を苦しめているという実情があることから、公正取引委員会は監視の目を厳しくしているようです。このことは、後述の「買いたたき」の解釈・具体例の追加・明確化にも表れていると思います。
⑵ 株式会社ビッグモーターに対する勧告
次に、一時メディアを騒然とさせた株式会社ビッグモーターに対する勧告事例を紹介いたします。
令和6年3月15日、公正取引委員会は、株式会社ビッグモーター(以下、「ビッグモーター」といいます。)及び株式会社ビーエムハナテンに対して、両社が下請法上禁止されている行為を行ったとして、勧告・指導を行いました(株式会社ビーエムハナテンは、当時、ビッグモーターの100%子会社でした。)。
参照:公正取引委員会HP「(令和6年3月15日)株式会社ビッグモーター及び株式会社ビーエムハナテンに対する勧告等について」
ビッグモーターは、主として中古車販売や買取を行っていた会社でしたが、その他にも車両の修理や板金塗装なども行っており、自社が販売する中古車や、お客様が購入した中古車のコーティング加工なども請け負っていました。
過去形でお話するのは、このビッグモーターという名前の会社が、現在は無くなってしまっているからです。
皆さんの記憶にも新しいかもしれませんが、令和4年夏頃に損害保険会社も絡む保険金不正請求疑惑が報道されると、この件も含めた様々な不正、違法行為、不祥事等が報じられるようになり、会社としての存続が危うい状況になりました。
現在は、損害賠償や訴訟に対応する存続会社、株式会社BALMと、分割承継によって事業を引き継いだ株式会社WECARSに分かれたということです。
話を戻しますが、今回の件は、ビッグモーターによる「買いたたき」に該当する行為をはじめ、「購入・利用強制」「不当な経済上の利益の提供要請」などの複数の違反行為があったとして、ビッグモーターらに対して勧告が行われたものです。また、「下請代金の支払遅延」など、複数の違反行為については指導が行われたこともあわせて公表されています。
公正取引委員会が公表したところによれば、ビッグモーターらは下請法上の交付義務があるいわゆる3条書面を交付しておらず、書類の保存もしておらず、下請事業者の名簿も存在していないことや、業務用のメッセージアプリが削除されていて社内・社外とのやりとりの記録が失われていること、取引の実情を知る現場の従業員が次々と退職してしまっていることなどから、全体の調査を行うには相当の期間が必要になりそうということです。
そのため、公正取引委員会は、まずは違反行為を止めさせるべく、令和5年9月末の段階で分かった一部の件について調査し、発覚した違反行為に対して勧告・指導を行ったということでした。
本件が相当根深い問題だったということが伺われます。
このような状況なのですが、ビッグモーターに対しては、本記事のテーマである「買いたたきの禁止」に違反する行為があったとして、勧告が行われています。
ビッグモーターは、創業者が策定した「経営計画書」の中で、「事業活動に必要なあらゆる経費は、しつこいぐらい値切る」と定めており、この方針の通り、令和3年3月10日、当時の営業本部次長から各店長に対して、下請事業者に委託しているコーティング加工の施行料金について、各店舗で統一されていなかった料金を、形状ごとの最安値の金額に合わせるように指示がありました。
その結果、令和3年12月頃、ビッグモーターは下請事業者に対し、上記のような営業本部の意向を踏まえて発注単価の引き下げを要請し、従来の単価から27.7%引き下げた単価を一方的に設定したとのことです。
このビッグモーターが行った発注単価(下請代金の額)の一方的な決定・引き下げが「買いたたきの禁止」に反するとして、令和6年3月15日、公正取引委員会は勧告を行いました。
今回判明したケースは、従前の単価から約27%も引き下げたものであることから、市価に比べて著しく低い価格になっている可能性は高いものと思われます。
また、それだけではなく、価格決定のプロセスも、ビッグモーター側の勝手な都合で、十分な協議を行うことなく一方的に単価引き下げを決定したということですから、「買いたたき」に該当すると判断されても仕方が無いものと思います。
ビッグモーターという名前の会社は無くなってしまいましたが、事業自体は新会社に引き継がれて存続しています。
経営陣が刷新され、「買いたたき」を含めた下請法違反が生じないような体制の会社になることが期待されます。
価格の据え置きに要注意
上記のビッグモーターの件は、会社の経営方針や体質が生んだ下請法違反事案と言えるとも思いますが、そのような体質ではない会社であっても、「買いたたき」に該当してしまう可能性のある行為類型があります。
それが「価格の据え置き」になります。
価格の据え置きに関する「買いたたき」の解釈・具体例が追加されました
労務費、原材料費、エネルギーコスト等々…昨今、様々なコストが高騰しています。
ある商品を生産したり流通させたりするのには様々なコストがかかりますが、こういったコストが上がっていく場合には、最終的な商品の値段・価格というのも上がっていくというのが自然な流れです。
しかしながら現実には、賃上げの遅れなどの原因から商品の価格はなかなか上がらず(上げられず)、据え置かれているということがあります。
コストが上がっているのにもかかわらず最終的な商品の価格が上がらないということは、その商品が生産されてからエンドユーザーの手元に届くまでの間に、誰かが無理をしているということです。
その「無理」「しわ寄せ」を受けているのが中小企業であり下請事業者であると考えた政府や各官庁、公正取引員会は、「賃上げ」と「価格転嫁」をセットで進めるべく、各種の対策をはじめました。
下請法に関連するところで言えば、内閣官房その他の関係官庁は「パートナーシップによる価値創造のための転嫁円滑化施策パッケージ」というものを取りまとめ、その中の「2.価格転嫁円滑化に向けた法執行の強化」の取組として、「下請代金法上の買いたたきの解釈の明確化」を行うとしました。
このパッケージの取りまとめを受け、公正取引委員会は、令和4年1月26日、下請法の解釈や運用の基準・指針をまとめている「下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準」を改正して、「買いたたき」に該当する行為の具体例を追加しました。
さらにその後、令和6年5月27日にも上記運用基準の改正が行われ、さらに具体例・解釈基準が追加されました。
以下、まとめてみます。
① 通常の対価の把握が難しい場合の「通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額」の考え方の追加
従前に同種又は類似の内容の給付を行う下請契約があるケースで、その給付にかかわる労務費、原材料価格、エネルギーコスト等といった主なコストが著しく上昇していると公表資料から把握することができる場合には、発注単価や下請代金の額を据え置いてしまうと、「通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額」を定めたと解釈されることになりました。
なお、ここでいう公表資料として、最低賃金の上昇率や春季労使交渉の妥結額、その上昇率が具体例として挙げられています。
② 「買いたたき」に該当するおそれのある下請代金の定め方の追加
下記では、令和4年に追加された、運用基準の「5 買いたたき」⑵のウ及びエをまとめます。
まず、労務費、原材料価格、エネルギーコスト等のコストが上昇している場合には、その上昇分を取引価格へ反映させる必要性について、下請事業者との間で交渉を持ち、明示的に協議することが求められています
この「明示的に」というのは、交渉の内容・話題として取り上げることだと思われますが、親事業者側としては、十分な協議を行ったことの証左として、会議録を残す、書面でやりとりをするなど、客観的にも分かる方法で交渉の状況を残すような自衛策が必要になるものと考えられます。そういった意味でも「明示的」であることが求められると思います。
このような明示的な協議を行うことなく、取引価格を据え置いてしまうと、「買いたたき」に該当する可能性があるとされています。
次に、上記のようなコストが上昇したため、下請事業者が取引価格の引上げを要求するということがあると思います。
その場合には、上記の通り協議することが第一の選択肢ですが、結論として価格転嫁を行わない(取引価格を据え置く)ということがあるでしょう。
このような場合に、価格転嫁を行わない理由を、書面、電子メール等の明確に残る形で下請事業者に回答することなく取引価格を据え置いてしまうと、「買いたたき」に該当する可能性があるとされています。
注意点としては、これは書面等で回答しさえすれば取引価格の据え置きが「買いたたき」に該当しなくなるということでは無いと考えられる点です。
通常の対価との乖離具合や価格転嫁を行わない理由によっては、やはり「買いたたき」に当たる可能性はあると考えるべきです。
参照:
公正取引委員会HP「(令和4年1月26日)「パートナーシップによる価値創造のための転嫁円滑化施策パッケージ」に関する取組について」
公正取引委員会HP「(令和6年5月27日)「下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準」の改正について」
公正取引委員会HP「下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準」
コスト上昇分の価格転嫁が十分ではなかった勧告事例(工機ホールディングス株式会社の例)
ここで、価格の据え置きに関する勧告事例をひとつ紹介します。
令和5年3月27日、公正取引委員会は、工機ホールディングス株式会社(以下、「工機ホールディングス」といいます。)に対して、下請法上禁止されている「買いたたき」を行ったとして、勧告を行いました。
参照:公正取引委員会HP「(令和5年3月27日)工機ホールディングス株式会社に対する勧告について」
工機ホールディングスは、東京都港区(品川駅前の一角です。)に本店を置く、電動工具を製造販売するメーカーです。平成30年までは日立工機株式会社という名称でした。元日立グループということですね。
HiKOKI(「ハイコーキ」と読みます。)という大手ブランドの電動工具を製造販売していますので、現場の方にはおなじみかもしれません。
工機ホールディングスは、自社の主力商品である電動工具に付けて使う、ホースカバーセットの製造を、個人の下請事業者に委託していました。
この下請事業者との間の従来の発注単価は、平成21年頃から据え置かれていたもので、本件に至るまで見直されてきませんでした。
しかしながら、昨今の各種コスト増がこの下請事業者を直撃します。
下請事業者は、原材料価格の上昇等によって、従来の単価では製造原価割れが生じることが明らかであると判断して、令和2年12月~令和3年1月頃、工機ホールディングスに対して単価の引き上げを要求しました。
単価の引き上げられた見積書を見た工機ホールディングスは、なかなか受け入れ難いと思っていたようですが、価格交渉が長期化することの悪影響を避けることを選択します。
工機ホールディングスは、令和3年1月12日、下請事業者に対して、従来の単価から約17%引き上げた価格を提示しました。
しかし、この価格提示には大きな問題がありました。
まず、新しく提示した価格は、従来の単価よりは上昇したものの、下請事業者が提示した見積額に比べると約46%も少ない金額であり、この新価格では製造原価割れの状況は依然続くというものでした。製造原価割れの価格が市価よりも低廉であることは市場原理からすれば明白です(なお、後述のとおり、おそらく市価よりも「著しく」低廉な価格だったと考えられます。)。
また、工機ホールディングスによる新価格の決定の基準も、自社の利益を優先したもので、上記の通り製造原価は考慮せず、単に区切りが良いとして設定した数字でした。すなわち、まったく根拠のない価格であるということです。
さらに、工機ホールディングスは、下請事業者に「今後、段階的に単価を引き上げます」というようなことを伝えたということです。
もちろん、実際にはそのような具体的な計画はありませんでしたし、事実、その後の単価の引き上げは行われませんでした。
下請事業者は、将来単価が引き上げられるという工機ホールディングスの言動を信じ、最終的に、令和3年1月29日から工機ホールディングスが提示した新価格での取引をはじめました。
その後、当該ホースカバーセットの製造は、本件とは直接関係しない事情によって、他の事業者に引き継がれることになったそうです。
しかしながら、令和4年5月18日、その後継事業者と工機ホールディングスが価格協議を行って定めたホースカバーセットの単価は、本件の下請事業者との間で適用されていた価格引き上げ後の新価格の、実に3倍を超える額だったということです。
そうだとすると、市価(通常の対価)としてはその程度が適切だったということが推測できますから、本件の下請事業者に提示した新価格がいかに低廉だったかが伺われます。
まさに、「通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額」だったのではないでしょうか。
上記のとおり工機ホールディングスが行った下請代金額の決定(新価格を受け入れさせたこと)が、「買いたたきの禁止」に反するとして、令和5年3月27日、公正取引委員会は勧告を行いました。
なお、工機ホールディングスは、同月15日、下請事業者がコスト上昇を含んで提示していた見積額で下請代金の額を再計算し、差額の302万9268円を支払ったということです。
本件は、製造原価割れが生じる単価を(多少の引き上げはありましたが)据え置いてしまったという、極端な事例かもしれません。
しかしながら、この事例にせよ、前述の下請法の運用基準の改正にせよ、公正取引委員会が「コスト増の状況下での価格の据え置き」に対して厳しい目を向けていることが分かると思います。
昨今のコスト増は、労務費、原材料費、エネルギー費等、どの業種・分野・商品であっても多かれ少なかれ影響を受けるものであると考えられます。
皆さんの周りでも、長期間、価格が据え置かれている取引は無いでしょうか。
どちらの事業者も厳しい状況に置かれていることと思いますが、この機会に、一度取引状況の見直しをすることをおすすめいたします。
まとめ
いかがだったでしょうか。
令和6年になり、「買いたたき」の勧告事例が2つも出たことで、「買いたたき」とはどのような行為類型なのか、実際にどのような行為が下請法違反になるとして勧告を受けたのか、注目度が高まったものと思います。
それは、ある意味では公正取引委員会の思惑通りなのかもしれません。
そもそも勧告事例の公表は、違反を行った事業者に対するペナルティという側面もありますが、他の事業者に対する警告・啓発という側面もあると考えられます。
特に上記で見てきた通り、昨今のコスト増については、その価格転嫁が進められるよう各種取組がなされているところです。
ぜひ、これらの勧告事例を参考に、適切な下請取引を実現していきましょう。
最後になりますが、公正取引委員会は、下請事業者が匿名で買いたたきなどの下請法違反行為の情報を提供できる「違反行為情報提供フォーム」を公開しています。
下請法違反が疑われる行為があった場合の対応策としては、弁護士へ相談して対応をしてもらうことの他、公正取引委員会に情報提供をして調査をしてもらうという方法もあります。
公正取引委員会の調査は、具体的な事案の早期解決には向きませんが、ひとつの方法としてご参照下さい。
具体的な事案について相談したい、相手方事業者と交渉したいということであれば、ぜひ弊所の顧問弁護士サービスをご利用下さい。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来30年以上の実績があり、17名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。 企業が直面する様々な法律問題については、各分野を専門に担当する弁護士が対応し、契約書の添削も特定の弁護士が行います。企業法務を得意とする法律事務所をお探しの場合、ぜひ、当事務所との顧問契約をご検討ください。
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