こんにちは。弁護士法人グリーンリーフ法律事務所の弁護士 渡邉千晃です。

損害保険会社の大手である4社が、企業向けの保険契約などで保険料を事前に調整していたとして、これを公正取引委員会が「カルテル」と認定したというニュースがありました。

「カルテル」という言葉自体は聞いたことがあるかもしれませんが、具体的にどういった行為を指すのでしょうか。

「カルテル」とは、端的にいうと、競争関係にある事業者間で、足並みをそろえて価格の引き上げを行うことなどをいいます。

では、独占禁止法上、どういった場合に「カルテル」は成立するのでしょうか。

そこで、この記事では、「カルテル」がどういった場合に成立するかなどを説明したのち、損保大手4社において認定されたカルテルをわかりやすく解説していきます

「カルテル」とは

私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(いわゆる「独占禁止法」)は、「不当な取引制限」を禁止しています(同法第2条6項、第3条)。

この「不当な取引制限」の中に、カルテルは含まれます。

例えば、他の事業者との間で共同して価格を引き上げるという「価格カルテル」などが典型的です。

今回、損保大手4社が行った行為は、保険料を事前に調整していたということですので、「価格カルテル」にあたるものと思われます。

「カルテル」が成立する条件

カルテルが成立する要件は以下の5つですが、判例では、この要件について下記のような解釈がなされています。

① 「事業者」が「他の事業者」と
② 「共同して」
③ 「相互に拘束して」、「共同遂行」
④ 「一定の取引分野における競争を制限する」こと
⑤ 「公共の利益に反する」こと

①「他の事業者」とは

カルテルを行う事業者同士は、「相互に競争関係にある独立の事業者」である必要があるとされています。

その理由としては、仮に競争関係にある事業者同士が、相互に協力して価格を調整できるとすれば、適正な価格競争が行われなくなってしまい、市場における公正な競争が阻害されてしまうおそれがあると考えられるためです。

では、「競争関係にある」事業者とは、どういった事業者を指すのでしょうか。

判例上では、この「競争関係にある」という要件を拡大して解釈する傾向にあり、「実質的な競争関係」にあれば、この要件を満たすと解釈しています。

すなわち、その他の会社の同意がなければ、価格の維持(調整)といった共同行為が成立しない関係にあれば足りるとされています。

②「共同して」とは

「共同して」とは、事業者相互間に、「意思の連絡」が存在することを意味します。

典型例としては、価格の値上げ行為について、契約や協定がある場合など、明示的な意思連絡がある場合です。

もっとも、判例上は、明示的な意思連絡までを必要条件としておらず、他の事業者と相互に共同行為を認識して、暗黙のうちに認容すること(「黙示の合意」)で足りるとされています。

価格カルテルを例にとると、意思の連絡があるというためには、複数事業者間において、事前に決定された基準価格に基づいて販売価格等を設定することを、相互に認識ないし予測し、これと歩調を揃える意思があれば足りるということになります。

なお、「意思の連絡」があったかどうかは事後的に判断されることとなりますが、判例上では、事前の連絡交渉やその内容、そして事後の行動の一致が、全体として意思の連絡を示すものであれば、これがあったことを推認できるとしています。

③カルテルの成立時期

カルテルが成立するのは、意思の連絡時、すなわち、「合意が成立した時」とされています。

したがって、事業者において、合意内容に着手したかどうか、合意内容の実施時期が到来したかどうか、又は、合意内容を実際に実施したかどうか等にかかわらず、事業者間で合意が成立した時点で、カルテルが成立することとなります。

他方、合意の成立により成立したカルテルは、「合意が消滅した時点」で終了します。

合意が消滅したといえるためには、①事業者間で合意を破棄するか、または、②破棄されないまでも、当該合意による相互の拘束関係が事実上消滅しているといえる特段の事情が必要とされます。

例えば、公正取引委員会による立ち入り検査がなされたことなどは、合意の実効性が消滅したといえる事情に当たり得るでしょう。

「カルテル」だと認められた場合の処分

公正取引委員会において「カルテル」にあたると判断された場合には、次のような処分を受ける可能性があります。

① 「排除措置命令」
② 「課徴金」

①「排除措置命令」とは

「排除措置命令」は、公正取引委員会が命じるものであり、例えば、(ⅰ)違反行為やその実行手段の差し止め、(ⅱ)違反行為を止めたことの確認、(ⅲ)取引先等への周知徹底、(ⅳ)再発予防策、公正取引委員会への報告などが挙げられます。

②「課徴金」とは

独占禁止法違反行為があった場合、公正取引委員会は、違反事業者に対し、課徴金を国庫に納付することを命じなければならないとされています。

損保大手4社のカルテルについて

今回のニュースによれば、カルテルを行った損保大手4社は、500を超える企業や自治体との保険契約について、保険料の事前調整(保険料について、事前に意思の連絡)を行っていたとされています。

公正取引委員会による立ち入り検査の結果、上記で述べた要件を満たすものと判断されたと考えられます。

また、公正取引委員会においては、当該4社に対し、再発防止などを求める「排除措置命令」を出す方針を通知したとのことです。

まとめ

損保大手4社による保険料の事前調整のニュースを基に、独禁法上問題となる「カルテル」を解説していきました。

昨今、様々な商品の値上げというニュースがなされていますが、競争関係にある他の事業者と足並みをそろえて価格を調整する行為は、「カルテル」として問題となる可能性があります。

違反を行ったような場合には、公正取引委員会からの立ち入り検査や、排除措置命令、課徴金納付命令を受けてしまうおそれもあるため、違反行為を行わないようにすることが重要だといえます。

独占禁止法は専門的な知識が必要な分野ですので、お困りの際は、独占禁止法に強い弁護士に相談することをお勧めいたします。

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