会社内でセクハラ(セクシュアルハラスメント)が発生した場合あるいはその相談を受けた場合に、会社が適切な対応をとらないと、会社も大きな責任を負うことになる危険性があります。

会社にはセクシュアルハラスメント防止のための対策をとり、現実に相談があった場合には、その内容に沿った対応が求められているのです。

セクシュアルハラスメントの対策と対応

セクハラとは何か

セクシュアルハラスメントの略称である「セクハラ」。

そもそも、セクハラとはどのような行為がこれにあたるのでしょうか。

男女雇用機会均等法においては、

「事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない」

とされています。

具体的には、

・性的な冗談を言う

・性的事実に関する質問をする

・食事やデートに誘う

・身体に接触する

などです。

さらには、

・社長が従業員をデートに誘ったが無視されたため、その従業員のボーナスを0にした

・社長が契約社員に性的関係を求めたが拒まれたため、次回の契約を打ち切った

などもあります。

もちろん、これらは、あくまで例ですので、これ以外の行為がセクシュアルハラスメントにあたらないというわけではありません。

これらの類型を参考に、個別の事案ごとに丁寧に判断することが必要になってきます。

セクハラの訴えを受けた場合、安易にセクハラに該当しないと判断するのではなく、様々な事情などから判断を行う必要があり、使用者側には慎重な対応が求められています。

セクハラにより会社が問われる責任

セクハラが発生した場合、どのような責任が生じるのでしょうか。

①加害者とされる者

まず、被害者は、セクハラを行った張本人(加害者)に対して、不法行為に基づく損害賠償(慰謝料)請求をすることがまず考えられます。

  (不法行為による損害賠償)

民法第709条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

 

②会社

つぎに、会社自身がその責任を問われる場合もあります。

使用者責任(民法715条)

 まず根拠として挙げられるのが民法で規定されている使用者責任です。

  (使用者等の責任)

民法第715条 ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。

  2項 (省略)

 つまり、会社は、被用者である従業員(労働者)が事業の執行について、違法な行為(セクハラ行為)を行い、第三者である従業員(労働者)に損害が生じたときは、その損害を賠償する責任を負うということになります。

 

 債務不履行責任(安全配慮義務違反)

 また、会社(使用者)は、従業員(労働者)がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働をすることができるよう、必要な配慮をするものとするとして、労働契約上の安全配慮義務を負っています(労働契約法5条)。

 (労働者の安全への配慮)

第五条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。

 

 そのため、従業員(労働者)が、セクシュアルハラスメントにより、職場において保護されるべき権利が侵害されないように、使用者は必要な配慮をしなければならず、その配慮義務を尽くさなかった場合には、安全配慮義務に違反するとして、労働契約上の債務不履行責任を負うことがあります。

 

 そのほかセクシュアルハラスメントにより、精神障害が発病した場合に労災認定がされることもあります。

 そのため、会社としては、そもそもセクハラが発生しないための環境づくりにも注力すべきなのです。

セクハラ防止のために会社が行うべき環境づくり

上記に記載したようなリスクを会社が負う危険性がある以上、会社としては、そもそもセクハラが発生しないように、それを未然に防ぐ環境づくりにも注力すべきです。

また、セクハラの相談を受けた場合には、その相談対応を欠かさないということも大切です。

それでは、具体的にどのような方策をとるべきか、以下解説していきたいと思います。

① 事業主の方針の明確化及ぶその周知・啓発

まず、職場におけるセクシュアルハラスメントの内容及び職場におけるセクシュアルハラスメントを行ってはならない旨の方針を明確化し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発することが大切です。

また、職場において、セクハラの言動を行った者については、厳正に対処する旨の方針及び対処の内容を就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書に規定し、労働者に周知・啓発することも必要です。

② 相談に応じるために必要な体制の整備

さらに、相談への対応のための窓口を予め定め、労働者に周知することも重要です。

そもそも相談の窓口がなければ、セクハラ行為の早期発見にもつながりません。

ただし、単に窓口を設けただけではなく、相談窓口の担当者が、相談者に対し、その内容や状状況に応じ適切に対応できなければ意味がありません。

他の部署との連携を図ることなども場合によっては必要になってくると思われます。

加えて、セクシュアルハラスメントの相談窓口が会社内部にあると相談に行きにくいという場合もあります。

そんなときは、職場環境とは別に外部窓口を設置することも検討すべきでしょう。

セクハラが発生した場合や、その相談があった場合に会社がすべきこと

実際に、セクハラが発生してしまった、あるいはその相談を受けた場合、会社としてはどのように対応すべきでしょうか。

①事実関係の迅速かつ適切な確認

まずは、事実関係の迅速かつ適切な確認が必要になります。

聴取対象者としては、相談者(被害者)はもちろんのこと、行為対象者(加害者)からもきちんと聴き取りをすることが必要です。

聞き取りの内容としては、行為者(加害者)が誰か、相談者(被害者)との関係はどうか、具体的にいつどこでどのようなことが行われたのか、相談者(被害者)はどう感じ、どのような対応をしたのかなど、具体的に時系列に沿って何があったかということを聞くことや、そのときの相談者(被害者)の受け止め方、その当時の状況等も詳しく聞きとることが必要かと思われます。

相談者(被害者)が、いわゆる証拠(メールや録音、日記など)客観的なものを持っている場合には、それらの確認も取れると良いでしょう。

行為対象者(加害者)の話を聞く際には、セクハラを行った/行っていないという結論の評価ありきではなく、客観的な事実を冷静に聞き取るように努め、事実関係をしっかりと把握していくことが必要です。

②被害者の被害回復を図るための措置をとる

セクハラ行為が認められた場合には、被害者の被害回復を図るための措置をとることが必要になります。

例えば、被害者と行為者の間の関係改善に向けて援助したり、被害者と行為者を引き離すために配置転換をしたり、行為者に謝罪を求めたり、被害者にメンタル不調が生じているときはメンタル不調への相談対応の措置をとるなどサポートをしていくことも考えられます。

③行為者に対して適正な措置を実施する

セクハラ行為が認められた場合には、行為者に対して適正な措置を実施することが必要になります。

事実関係が認められたとしても、内密に処理したり、当事者間に解決を委ねたりすることもあり得ますが、そのような対応は好ましくありません。

会社として規定に基づいた処分を行うことが必要です。

④再発防止の措置

その他、再発防止として、その他にセクハラと思われる事案がないかどうかの確認や、再度研修を行うなどしてハラスメントの周知を行う必要が求められます。

⑤二次被害の防止

職場におけるハラスメントに関する相談者・行為者等の情報は、プライバシーに関する事項です。相談者(被害者)にとっては、第三者に知られたくない情報です。

そのため、情報が外部に漏れてしまうと、ハラスメントによる二次被害が生じえます。

それゆえ会社としては、相談者・行為者のプライバシーを保護するためにも必要な措置として情報が外部に漏れないよう細心の注意をはらう必要があります。

まとめ

会社はセクシュアルハラスメントの防止措置を講じなければなりません。

防止措置を講じた上で、実際にセクシュアルハラスメントが生じた場合には、防止措置に応じた対応がきちんとできるように、従業員に周知をし、運用していくことも必要となってきます。

セクシュアルハラスメントは、職場環境を悪化させるだけでなく、会社にとっても生産性の低下、訴訟を含む労力やコストの損失、さらには社会的評価の低下になりますので、まずは防止(予防)をするための取り組みをしていただき、セクシュアルハラスメントの相談があった場合には迅速に対応ができるように日頃から準備をしておくことが肝要です。

もっとも、セクハラ対応は誰しも慣れているものではありませんので、実際の対応に苦慮するケースも多いと思います。

そこで、セクハラ対応について、相談やアドバイスを受けるために弁護士へ相談することも是非ご検討ください。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 小野塚 直毅
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