産業廃棄物処理業を始めたり、産業廃棄物処理場を設置したりするにあたり、廃棄物処理法の規制をクリアする必要があります。さらに都道府県や市町村レベルでも実質的に独自の規制を内容とする条例を定める場合もあります。これらの関係について説明していきます。

前提:廃棄物処理法上の規制

廃棄物処理法上、産業廃棄物処理施設を設置するにあたっては、廃棄物処理法上の規制にしたがって管轄する都道府県知事の許可を得なければなりません。

許可に関する根拠条文

廃棄物処理法15条5項本文

産業廃棄物処理施設(・・・)を設置しようとする者は、当該産業廃棄物処理施設を設置しようとする地を管轄する都道府県知事の許可を受けなければならない。

許可の基準に関する根拠条文

産業廃棄物処理施設を設置については、許可の基準に関する条文が設けられています。

廃棄物処理法15条の2第1項(産業廃棄物処理施設を設置する場合)

都道府県知事は、前条第1項の許可の申請が次の各号のいずれにも適合していると認めるときでなければ、同項の許可をしてはならない。

① その産業廃棄物処理施設の設置に関する計画が環境省令で定める技術上の基準に適合していること

② その産業廃棄物処理施設の設置に関する計画及び維持管理に関する計画が当該産業廃棄物処理施設に係る周辺地域の生活環境の保全及び環境省令で定める周辺の施設について適正な配慮がなされたものであること

③ 申請者の能力がその産業廃棄物処理施設の設置に関する計画及び維持管理に関する計画に従つて当該産業廃棄物処理施設の設置及び維持管理を的確に、かつ、継続して行うに足りるものとして環境省令で定める基準に適合するものであること

④ 申請者が第14条第5項第2号イからヘまでのいずれにも該当しないこと

条例による規制~法律と条例の関係

都道府県や市町村は、廃棄物処理業の許可や廃棄物処理施設設置の許可にあたり、

廃棄物処理法とは別途、条例で規制を設けることがあります。

徳島県公安条例事件(最大判昭和50年9月10日刑集29巻8号489頁)

この点、リーディングケースである徳島県公安条例事件において「条例が国の法令に違反するかどうかは、両者の対象事項と規定文言を対比するのみでなく、それぞれの趣旨、目的、内容及び効果を比較し、両者の間に矛盾牴触があるかどうかによつてこれを決しなければならない。」と判示されたところです。

宗像市焼却炉設置計画廃止勧告処分無効事件(福岡地判平成6年3月18日・判例時報122号29頁)

そして、宗像市焼却炉設置計画廃止勧告処分無効事件においては、「条例上の産業廃棄物処理施設の設置等に対する規制は、もっぱら自然環境の保全及び自然環境に係る事業者と市民の間の紛争を予防する観点から一般的に産業廃棄物の処理施設の設置等の抑止を図るものであるから、その目的の貫徹を図ろうとする限りにおいて、必然的に同法の法目的の実現が阻害される関係にある」として、廃棄物処理法に抵触する規制条例を違法なものと判断しました。

条例による規制~法律と条例が矛盾抵触しない場合

環境保護を目的とする、廃棄物処理施設の設置を「実質的に」規制する地方自治体の条例であっても、廃棄物処理法と別の目的で制定された場合には、上記の徳島県公安条例の判断枠組みから抜け落ち、当該条例は適法となります。

しかし、あえて廃棄物処理法と矛盾抵触しないよう、「実質的に」廃棄物処理施設の設置を規制する条例については、別の観点からその効果を否定することがあります。

リーディングケース~紀伊長島町水道水源保護条例事件(最判平成16年12月24日民集58巻9号2536頁)

事案の概要

① X社は,産業廃棄物の収集,運搬,再生,再生物販売及び処分業その他の事業を目的として設立された有限会社であるところ,町の区域内に本件施設を設置して産業廃棄物処理業を行うことを計画した。本件施設の建設予定地は,三戸川にほぼ隣接しており,赤羽簡易水道の取水施設の上流に位置している。

② X社は平成5年10月4日ころ,町に対し,本件施設の設置に関する隣接地主の同意及び焼却残さの最終処分場への受け入れに関する同意について相談し,10月8日,地元自治会を対象に本件施設に関する説明会を開催した。そこで,町は,10月21日,町長,助役の他,関係部局の担当者が集まって今後の取り組みについて協議した。

③ X社が11月5日に本件施設に係る産業廃棄物中間処理事業計画書を三重県尾鷲保健所長に提出したことから,同所長は,11月22日,町長に対し,上記計画書を送付するとともに,産業廃棄物処理指導要綱に基づく事前協議会を開催することを通知し,これに担当者を出席させるよう要請した。そして,11月29日,事前協議会に先だって現地調査を実施した上,三重県及び町関係各機関の参加のもとで事前協議会を開催し,町はこれに担当者9名を参加させ,上記計画につきX社の説明を聴取した。この中で,X社の担当者は,冷却水の必要量を具体的に回答した。

④ 平成6年1月28日,町は,以下の町水道水源保護条例を制定した。

「水道法2条1項の規定に基づき,町の住民が安心して飲める水を確保するため,町の水道水質の汚濁を防止し,その水源を保護し,住民の生命,健康を守ることを目的とするものであり,町長は,水源の水質を保全するため水源保護地域を指定することができるとするとともに,産業廃棄物処理業その他の水質を汚濁させ,又は水源の枯渇をもたらすおそれのある事業を対象事業と,対象事業を行う工場その他の事業場のうち,水道にかかわる水質を汚濁させ,若しくは水源の枯渇をもたらし,又はそれらのおそれのある工場その他の事業場を規制対象事業場と認定することができる旨規定し,水源保護地域に指定された区域における規制対象事業場の設置を禁止する

⑤ 平成6年12月27日,X社は,廃棄物処理法15条1項に基づき,三重県知事に対して本件施設に係る産業廃棄物処理施設設置許可申請をした。平成7年5月10日,三重県知事は、X社に対して,本件施設に係る産業廃棄物処理施設設置を許可した

⑥ 町長は,5月31日,本件施設は町水道水源保護条例所定の対象事業を行うもののうち,所定の水道水源の枯渇をもたらし,又はそのおそれのある工場,その他の事業場に当たるとした

判示内容

「本件条例は,水源保護地域内において対象事業を行おうとする事業者にあらかじめ町長との協議を求めるとともに,当該協議の申出がされた場合には,町長は,規制対象事業場と認定する前に審議会の意見を聴くなどして,慎重に判断することとしているところ,規制対象事業場認定処分が事業者の権利に対して重大な制限を課すものであることを考慮すると,上記協議は,本件条例の中で重要な地位を占める手続であるということができる。そして,前記事実関係等によれば,本件条例は,上告人が三重県知事に対してした産業廃棄物処理施設設置許可の申請に係る事前協議に被上告人が関係機関として加わったことを契機として,上告人が町の区域内に本件施設を設置しようとしていることを知った町が制定したものであり,被上告人は,上告人が本件条例制定の前に既に産業廃棄物処理施設設置許可の申請に係る手続を進めていたことを了知しており,また,同手続を通じて本件施設の設置の必要性と水源の保護の必要性とを調和させるために町としてどのような措置を執るべきかを検討する機会を与えられていたということができる。そうすると,被上告人としては,上告人に対して本件処分をするに当たっては,本件条例の定める上記手続において,上記のような上告人の立場を踏まえて,上告人と十分な協議を尽くし,上告人に対して地下水使用量の限定を促すなどして予定取水量を水源保護の目的にかなう適正なものに改めるよう適切な指導をし,上告人の地位を不当に害することのないよう配慮すべき義務があったものというべきであって,本件処分がそのような義務に違反してされたものである場合には,本件処分は違法となるといわざるを得ない。」

コメント

紀伊長島町の条例は、宗像市焼却炉設置計画廃止勧告処分無効事件で問題となった条例とは異なり、水源保護という別目的で定められた条例でした。そのため、最高裁はダイレクトに紀伊長島町の条例を違法なものとはしませんでした。

しかし、上記の順番のとおり、紀伊長島町の条例は実質的には、X社の産業廃棄物処理施設の設置を阻むべく、後出しで作られた条例です。

そこで、最高裁は、紀伊長島町の条例自体は廃棄物処理法に抵触しないものの、X社が産業廃棄物処理施設の設置ができなくなるという重要な法的効果が生じる以上、町がX社との間で十分な協議を尽くし、X社に対して地下水使用量の限定を促すなどして予定取水量を水源保護の目的にかなう適正なものに改めるよう適切な指導をし、X社の地位を不当に害することのないよう配慮すべき義務に違反していた、というアプローチで、町の判断を違法なものとしました。

脱法的な町のやり方を認めなかったわけです。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 平栗 丈嗣
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