取締役は、その会社の経営者として、会社に対する忠実義務、善管注意義務を負います。このような取締役が、その会社をよそに会社と競業する取引をして会社を害さないよう、会社法は、取締役に対する「競業避止義務」を課しております。このページでは、埼玉県で30年以上、中小企業を中心とする企業法務を扱ってきた法律事務所の弁護士が、何が許されない競業避止義務違反に当たるのかについて、ポイントを絞って分かりやすく解説します。

競業避止義務って何?

取締役が、自己(または第三者)のために、会社の事業の部類に属する取引をすることを、「競業」といいます。

会社法は、取締役に対して、会社に無断でこのような競業する取引をすることのないように、一定の規制をしております。これを取締役の競業避止義務といいます。

つまり、会社に無断で取引をすると、会社の利益を侵害し、顧客情報やノウハウを自らの利益のために追及するおそれがあるということです。

具体的にみてまいりましょう。

競業避止義務の具体的な内容は?

・取締役会設置会社の場合

→取締役は、その取引につき、重要な事実を開示して、取締役会の承認を受けなければなりません(会社法365条1項、同356条1項)。

・取締役会設置会社以外の場合

→取締役は、その取引につき、重要な事実を開示して、株主総会の普通決議の承認を受けなければなりません(会社法356条1項)。

会社法

第三百六十五条 取締役会設置会社における第三百五十六条の規定の適用については、同条第一項中「株主総会」とあるのは、「取締役会」とする。
第三百五十六条 取締役は、次に掲げる場合には、株主総会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。
一 取締役が自己又は第三者のために株式会社の事業の部類に属する取引をしようとするとき。

会社の事業の部類に属する取引とは?

競業避止義務の範囲は無限定ではなく、「会社の事業の部類に属する取引」がその対象となります。

具体的には、会社が実際に行っている取引と目的物(商品)と市場が競合する取引をいい、定款に書いてあるかどうか(書いてあるとしても、実際に取り組まれているかどうか)が一つの基準となりましょう。

具体的なケースで悩むときがあるかもしれませんが、忘れてはならないのは、競業避止義務を課した法律の趣旨が、会社の利益を害する危険を防止することにありますので、かかる趣旨に反するかどうかを実質的に考えていただけるとよいかと思います。

取締役が事前に承認を得ていれば、全く問題はありませんか?

承認を得ていれば何をしても許されると考えるのは、誤解です。

つまり、例え、承認を得ていた取引であったとしても、その取引により、会社に損害が発生した場合、任務懈怠による対会社責任を追及される可能性があります(会社法423条1項)。

会社法

第十一節 役員等の損害賠償責任
(役員等の株式会社に対する損害賠償責任)
第四百二十三条 取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人(以下この章において「役員等」という。)は、その任務を怠ったときは、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
2 取締役又は執行役が第三百五十六条第一項(第四百十九条第二項において準用する場合を含む。以下この項において同じ。)の規定に違反して第三百五十六条第一項第一号の取引をしたときは、当該取引によって取締役、執行役又は第三者が得た利益の額は、前項の損害の額と推定する。

上場企業の場合

公開会社では、取締役の競業は、事業報告の附属明細書に記載されることなり、株主・債権者等に開示されることになります。

万一、競業避止義務に違反したらどうなりますか?

取締役は、取引によって得た利益の額=会社の損害額と推定されます

よって、利益が出たら、すべて、会社に損害賠償として請求されてしまうということになります(会社法423条1項、2項)。

また、総株主の同意がない限り、事後承認は認められておりません(会社法424条)。

会社法

第四百二十四条 前条第一項の責任は、総株主の同意がなければ、免除することができない。

取締役は様々な責任のある立場です。

会社の経営のかじ取りをする以上、当然の規定であり、会社を害して自己を利することは許されません。

取締役の方は、競業避止義務に反する取引をしないように注意喚起としてご覧いただけたかと思います。

株主の方は、取締役による競業避止義務違反がないかどうかという観点からご覧いただけたと思います。


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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 時田 剛志
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