下請法は、親事業者による下請事業者に対する優越的な地位の濫用行為を取り締まるための法律です。つまり、ある事業者と他の事業者との間の取引について一定の行為を規制するという法律です。

ここで、日本の会社が海外の法人と取引を行うときにも、こうした規制があるのかが問題になりますので、これについて解説いたします。

近年の企業のグローバル化

近年、企業の規模を問わず、海外展開する企業は増加しており、市場が必ずしも日本に限定されているわけではありません。

逆に、海外の会社の下請事業者として事業を行うことも増加しています。

さらに、日本の企業ではあるが、海外に拠点や支店を設けているところもあります。

こうした企業のグローバル化により、海外法人との間での取引が行われることが増加している今、その法規制については注意をすべきです。

そこで、「受注者が海外法人である場合における下請法の適用」と「発注者が海外法人である場合における下請法の適用」について解説します。

受注者が海外法人である場合における下請法の適用

法適用についての考え方

海外法人に対して、会社で製造する商品に使用する部品の製造を委託するなど、海外法人が受注者となるケースもあるかと思います。この場合、下請法の適用はあるのでしょうか。

前提として、刑法などの公法は、日本の領域内でのみ適用され、効力が外国には及ばないというのが原則です。

しかしながら、経済法に関する分野では、国際関係の境界がなくなりつつあります。そのため、こうした日本の領域内でのみ適用されるという考え方を緩和して、日本の法律を日本領域外にも適用するという考え方が広がりをみせています。

下請法ではありませんが、同じく経済に関する法律である独占禁止法について、最高裁の判例で、日本の独占禁止法が定める規定の適用が国外での取引においても適用されるとしたものがあります。これは、日本の自由競争による経済秩序を侵害する取引である場合には、日本の経済秩序を守るために、日本の独占禁止法を適用させるべきという考え方に基づいております。

下請法の理念

下請法の理念や趣旨には、「親事業者の下請事業者に対する取引を公正ならしめる」というものがあります(下請法1条)。

この理念や趣旨を守るためには、日本の発注者が日本の下請先から搾取を行うことのみならず、海外の下請先から搾取を行うことも制限しなければ達成できません。

なぜなら、海外の下請先からの搾取を認めてしまうと、下請先からの搾取を行っていない日本の競争事業者と比較して、搾取を行っている発注者が不当に有利な立場に立つことが可能となってしまい、搾取を行わないことで相対的に不利益を被るという結果になりかねないからです。

公正取引委員会の見解

令和3年に中小企業庁及び公正取引委員会が親事業者を対象に実施した下請事業者との取引の調査に関するFAQでも、日本国内において行われた取引である限り、海外の事業者との取引にも下請法の適用があるとの説明がなされています。

公正取引委員会による取締まり

このように、受注者が海外法人である場合においても、下請法は基本的に適用されることと考えられます。

しかしながら、下請法は、日本円を基準として資本金額や出資総額によって親事業者と下請事業者を定義しております(下請法2条7項、8項)。

そのため、下請事業者が海外法人の場合には、こうした資本金の充足状況の判断が困難であるのが実情です。

したがって、明らかに資本金要件を充足している場合は別として、資本金要件充足の判断が困難である場合には、下請法の取締まりが行われることが確実とまでは言えません。

もっとも、取締まりが行われる可能性は十分にありますし、下請法の理念や趣旨を実現するために、下請法を遵守すべきであることは確実です。

発注者が海外法人である場合における下請法の適用

日本の企業であっても、海外に本店があり、日本に支店があるなどの会社であれば、海外の法人から、日本の会社に対して発注を行うということは考えられます。

このように、海外で行われた行為又は海外に在住する企業に対して、日本の法律である下請法を適用できるかが問題となりますが、下請法には、こうしたことについての直接の規定がありません。

しかしながら、受注者が海外法人である場合においての考え方と同様の理屈が当てはまりますし、発注者が海外法人である場合において下請法の適用を排除することに積極的な規定や考え方もありません。

以前は、中小企業庁のQ&Aにて、「現時点においては、国は運用上、海外法人の取り締まりを行っていません」という回答がなされていましたが、現在はこうした記載は削除されておりますので、行政は、海外法人への取り締まりを行わないという姿勢を見せておりません。

以上のことを総合的に考慮すると、行政が海外法人への取り締まりを行わないという姿勢を見せていない一方で、海外法人に対しても下請法の適用を認めることに積極的な考え方があり、少なくともそのように読み取れる下請法の条文や最高裁の判例がある以上、発注者が海外法人である場合にも下請法の適用はあるものと考えるのが適切と考えられます。

また、取締まりが行われる可能性もあると考えられます。

まとめ

ここまで、海外法人と下請法の適用について解説しました。

海外法人との取引が頻繁にあるという企業は、現時点では多いとまでは言えないかもしれませんが、近い将来こうした取引が行われることも考えられます。

また、下請法は日々の取引において考えることが必須な法律なため、その判断を誤ると企業の経営に大きな影響を及ぼすと恐れもありますので、注意が必要です。

そのため、下請法についてお悩みの場合、専門としている弁護士に相談することが重要となります。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 遠藤 吏恭
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