荷主による運送代の不当減額 独禁法違反のおそれ

こんにちは。弁護士法人グリーンリーフ法律事務所の弁護士 渡邉千晃です。

運送会社に支払う代金を不当に減額したとして、公正取引委員会が独禁法違反の疑いで違反事業者に立ち入り検査を始めたというニュースがありました。

公正取引委員会は、運送業界における不公正な取引方法として、「物流特殊指定」というルールを細かく定めています。

今回は、そのルール違反が疑われるとして立ち入り検査が行われたようです。

「物流特殊指定」は、運送業界における不当な値下げの圧力や、不当な要求を取り締まるものとして定められています。

トラックの運転手が不足することを発端とする「2024年問題」が社会問題として挙げられるなかで、公正取引委員会も、運送業界への警戒を強めていることが考えられます。

そこで、この記事では、独禁法の基本的な考え方を簡単に説明したのち、運送業を取り締まる「物流特殊指定」の内容をわかりやすく解説していきます。

物流分野における独禁法の規制とは

物流分野における独禁法の規制とは

そもそも独占禁止法では、公正な競争秩序に悪影響を及ぼすおそれのある取引行為を「不当な取引制限」として禁止しています(同法第2条6項、第3条)。

運送業界の中で特に問題となりやすい独禁法の規制としては、「優越的地位の濫用」があります。

「優越的地位の濫用」は、取引上、優越的な立場にある事業者が、劣後的な立場にいる取引相手に対して、優越的な地位にあることを利用して、不当な要求をする場合などを規制しています。

この「優越的地位の濫用」は、全ての業種に適用があるため、もちろん、運送業界にも適用があり、これに違反する疑いがあれば、公取委が立ち入りの検査を行うことがあります。

また、物流の分野では、特に、荷主が物流事業者に対して優越的な地位にあることが多いことから、物流分野における特定の取引を取り締まるため、「物流特殊指定」ということで、9つの取引方法が特に取り締まりの対象となっています。

なお、元請け物流事業者が下請け物流事業者に対して、優越的な地位を利用して、不当な要求を行うことなどは、別途、「下請法」により規制対象となります。

運送業界における「不公正な取引方法」

運送業界における「不公正な取引方法」

「物流特殊指定」として規制の対象となるのは、以下の2つの要件を満たす取引です。

①「荷主」が「物流事業者」に対して、継続的に物品の運送又は保管を委託している場合

②事業者の格差として、以下のいずれかの場合
a)「荷主」が「物流事業者」よりも、取引上の地位が優越していること
b)「荷主」の資本金が3億円以上の場合、「物流事業者」の資本金が3億円以下
c)「荷主」の資本金が1千万円~3億円以下の場合、「物流事業者」の資本金が1千万円以下

この2つの要件を満たす場合には、「特定荷主」、「特定物流事業者」となり、「特定荷主」が「特定物流事業者」に対して、以下の取引行為を行うことが規制されます。

「物流特殊指定」として規制される9つの取引

⑴ 代金の支払い遅延

⑴ 代金の支払い遅延

これは、特定物流事業者に何の責任もないにもかかわらず、特定荷主が代金(運送費や保管料)を支払期日までに支払わない場合を規制しています。

例えば、特定荷主に資金繰りの都合がつかなかったことを理由に、予め定められた支払い期日を徒過して代金を支払った場合などが挙げられます。

⑵ 代金の減額

⑵ 代金の減額

これは、特定物流事業者に何の責任もないにもかかわらず、特定荷主が代金を減額する場合を規制しています。

例えば、特定荷主が顧客から減額を求められたことを理由として、特定物流事業者に対して支払う代金を減額した場合などが挙げられます。

⑶ 買い叩き

⑶ 買い叩き

これは、特定荷主が特定事業者に対して支払う代金を、通常の対価と比して著しく低い金額に不当に定める場合を規制しています。

例えば、特定荷主が特定物事業者と十分な協議を経ることなく、一方的に代金額を決定した場合などが挙げられます。

⑷ 物の購入強制・役務の利用強制

⑷ 物の購入強制・役務の利用強制

これは、正当な理由がないにもかかわらず、特定荷主が特定物流事業者に対して、自己の指定する物や役務を購入・利用させる場合を規制しています。

例えば、特定荷主が特定物流事業者に対して、自ら指定するリース会社とトラックのリース契約を締結するように再三に渡って要求して契約させた場合などが挙げられます。

⑸ 割引困難な手形の交付

⑸ 割引困難な手形の交付

これは、特定荷主が、支払期日までに一般の金融機関で割引を受けることが困難な手形を交付することを規制しています。

一般的に、割引困難な手形といえるかどうかは、その業界の商慣習等を基に判断されることとなります。

⑹ 不当な経済上の利益の提供要請

⑹ 不当な経済上の利益の提供要請

これは、特定荷主が特定物流事業者に対して、自己のために、お金やサービスなどの経済上の利益を提供させる行為を規制しています。

例えば、特定荷主が特定物流事業者に対して、自己の倉庫に保管してある荷物の仕分けや梱包作業などを無償で行わせること等が挙げられます。

⑺ 不当な給付内容の変更及びやり直し

⑺ 不当な給付内容の変更及びやり直し

これは、特定荷主が特定物流事業者に対して、不当に運送又は保管を変更させたり、やり直しをさせたりすることを規制しています。

例えば、特定荷主が自己の都合を理由に、配送先を変更させたにもかかわらず、変更に伴い必要な費用の一部を特定物流事業者に負担させた場合などが挙げられます。

⑻ 要求拒否に対する報復措置、及び、⑼ 情報提供に対する報復措置

⑻ 要求拒否に対する報復措置、及び、⑼ 情報提供に対する報復措置

これは、特定物流事業者が上記⑴~⑺の要求を拒否したことや、公正取引委員会に違反事実を知らせた(又は知らせようとした)ことを理由に、特定荷主が取引の量を減じたり、取引を停止するなど、報復措置をとることを規制しています。

違反行為があった場合には?

違反行為があった場合には?

公正取引委員会は、物流特殊指定の問題があると思われる行為について、積極的に情報を収集し、調査を行っています。

実際に荷主に違反行為が認められた場合には、違反行為をやめさせるための排除措置命令や、警告・注意等を行うなどして、違反行為に対処しています。

冒頭でお話したとおり、運送会社への支払い代金を不当に減額したり、超過勤務の対価を支払わなかったとして、「物流特殊指定」違反の疑いにより、当該事業者へ立ち入り検査が行われたとのニュースがありました。

ニュースによれば、当該事業者は、発注額を事後的に減額したり、積み込み作業などをトラック運転手にさせていたのに、追加の支払いをしていないといった取引が、10年以上に渡って行われていた疑いがあるとのことです。

立ち入り検査の結果、「物流特殊指定」違反の事実が認められた場合には、違反行為をやめさせるための排除措置命令などがなされることが考えられます。

まとめ

まとめ

運送業界における「不公正な取引方法」として、「物流特殊指定」を説明しました。

トラックの運転手不足が「2024年問題」として社会問題になっている中で、公正取引委員会が規制する取引も増えていくかもしれません。

「物流特殊指定」違反が疑われるような取引があった際には、積極的に公正取引委員会に情報提供をすることが求められます。

独占禁止法は専門的な知識が必要な分野ですので、お困りの際は、独占禁止法に強い弁護士に相談することをお勧めいたします。

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