株主総会では、閉鎖型の会社を除き、株主による代理人出席や動議がなされるなどして翻弄されることがあります。このページでは、埼玉県で30年以上、中小企業を中心とする企業法務を扱ってきた法律事務所の弁護士が、会社法の定める株主提案権とそれに対する対処法について、ポイントを絞って分かりやすく解説します。
Q.株主総会当日に株主が来場した場合にどのように本人確認するべきでしょうか?
閉鎖型の会社で少数の株主しかおらず、名前と顔が一致するのであればあまり問題になりませんが、公開会社や株主数の多い会社の場合には、株主の本人確認や代理権の確認をする必要があります。
それでは、入場を認めるにあたり、どのような法的ルールがあるのかといいますと、結論としては、明文の定め(ルール)はありませんので、議長による議事整理権に含まれ、議長がその方法を決定することができます。
実務上よくあるのは、株主宛にあらかじめ「議決権行使書面」や「入場票」を送付しておき、書面を持参した者を株主として入場させる方法です。
それがない場合、株主資格の本人確認をすることになります。
方法としては、株主リストを用意しておき、受付で株主の住所・氏名を記載させ、当該リストと照合する方法が考えられます。
Q.株主総会に代理人が出席することは認めるべきでしょうか?
まずは、定款を確認してください。
定款において、議決権を行使することができるのを「他の株主」に限定している会社がとても多いです。このような定款がなければ、適法な委任状がある限り、拒むことは難しいと思われます。
仮に定款が存在する場合、このような定款の定めも有効ですから、例外なく受任者が株主でなければ入場を認めないという判断もあり得ます。
ただし、そもそも、このような定款の趣旨は、“株主総会が株主以外の第三者によってかく乱されることを防止し会社の利益を保護する趣旨である”と考えるのが最高裁の立場です(最判昭和43年11月1日)。そのため、このような特殊性(総会をかく乱するおそれ)が認められない場合に一律に議決権行使を拒むことは、後々に争いになる可能性も秘めており、委任状等の確認ができたときは、非株主を代理人として入場を認めるという選択肢もあり得ると思います。
なお、株主が法人である場合、本来は代表取締役が議決権を行使することになりますが、従業員が来場したときは、代表者からの委任状や職務代行通知書の提示、これらに変えて名刺の提供及び身分証明書を確認して、入場を許可する扱いもあります。
この場合、つまり当該会社の従業員が受任者として議決権を代理行使する場合、当該従業員が株主である必要はないと考えられます(最判昭和51年12月24日)ので注意が必要です。
Q.株主総会における議決権行使の委任を受けた法人の従業員が複数名で入場することは認めるべきでしょうか?
この場合も定款を確認してみましょう。
定款において、議決権を行使できるのはあくまで「代理人1名」としている場合があります。この場合、断ることで差支えありません。
また、仮にそのような定款の記載がなくても、議長の議事整理権により断ってもよいのではないかと思います。
ただし、ケースバイケースで介助者や通訳の入場を認める場合もあるかもしれません。その場合には、当該人物が株主ではないことが分かるようにしておく工夫が必要でしょう。
Q.株主提案がある場合に、他の株主から当該提案をした株主に対する質問がなされる場合に、質疑をさせなければならないのでしょうか?
株主提案をした株主には、回答義務がありません。
しかし、回答をすること自体は認めても構いません。
ただし、議長には、議事整理、秩序維持の権利(会社法315条)がありますから、議長の裁量で取り扱いを決するのでよろしいかと思います。
一方、会社の取締役等は、株主総会において株主から特定の事項について説明を求められた場合には、必要な説明をしなければなりません(会社法314条)。
そのため、会社の取締役等の説明が必要であれば、その質問を取り扱う必要はあると考えます。ただし、例えば提案理由等の質問は、取締役等では分からないでしょうから、説明義務の範囲外であるとも考えられます。そのため、取り扱わないという選択もあり得ます。
Q.採決の際のルール(挙手、拍手など)はありますか?
明確な規定はありませんので、会社の慣行等に従っていただいて構いません。
例えば、議決権の過半数等が確認できればよいので、大株主等のみを注視するのでも構わず、仮に金商法上の臨時報告書を提出する必要のある会社であっても、事前に議決権行使書面等で行使された議決権をベースに、それに会社として把握可能な役員が保有している議決権や大株主が保有している議決権の分を適宜加算して臨時報告書に記載する例が多いといわれています。
議長は、議案に対する賛成数を充足しているか否かを宣言すればよく、賛否の数を明示する必要はありません(東京地判平成14年2月21日)。
最高裁も、議決権数が決議に必要な数に達したことが明白になった時に成立するとしています(最判昭和42年7月25日)。
なお、証拠として残しておくのであれば、大株主などが賛成する様子をビデオ撮影しておくという方法もあるようです。
Q,どのような場合が動議にあたり、どのような場合が不適法な提案に当たるのでしょうか?例えば、取締役Aを選任するという議案に対し、別の候補者Bを選任すべきとするのは動議に当たりますか?取締役Aに追加してBも追加すべきとするのはどうでしょうか?
会社法304条が動議についてこのように定めています。
第三百四条 株主は、株主総会において、株主総会の目的である事項(当該株主が議決権を行使することができる事項に限る。次条第一項において同じ。)につき議案を提出することができる。ただし、当該議案が法令若しくは定款に違反する場合又は実質的に同一の議案につき株主総会において総株主(当該議案について議決権を行使することができない株主を除く。)の議決権の十分の一(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の賛成を得られなかった日から三年を経過していない場合は、この限りでない。
動議に当たる場合には、議案を提出することができます。動議に当たらない場合は、議長が却下することになります。
動議は、株主が一般的に予見できる範囲の議案の変更の範囲でのみ許されると解されております。
例についてみると、候補者Aを取締役に選任するという議案に対し、候補者Bを取締役人選任するという議案を提出することは、議案の修正動議に当たり、会社法304条の予定する動議そのものです。
これに対し、増員する修正は、株主が一般的に予見できる範囲の議案の変更の範囲を超えており、不適法却下することになります。
その場合、議長は、「株主より「動議」として「候補者〇」を追加する旨のご提案がございました。しかしながら、これは新たな「議題」を提出するものであり、適法な動議の提出とは認められません。従って、このまま議事を続けさせていただきます。」などとして却下することになります。
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