下請法は、下請業者に返品をすることを原則として禁止しています。
ですが、一切返品が許されないというわけではありません。
そこで、どのような場合であれば返品をすることができるのかについて解説いたします。
返品禁止規定の内容
下請法は、下請け業者の責めに帰すべき事由がないのに、下請け業者の給付を受領した後、下請事業者にその給付に係る物を引き取らせることを禁止しています(下請法4条1項4号)
下請法が、このようにして返品を禁止しているのは、親業者が下請け業者に対して委託するものは、親事業者が指定する仕様に基づいた特殊なものが多く、納入した物品等を返品されると他社への転売が困難で、返品されると下請事業者の利益が損なわれるので、これを防止するためです。
とはいえ、一切返品ができないとすると、親事業者にとって酷です。
そこで、下請法は「下請け事業者の責めに帰すべき事由がある場合」には返品を認めています。
責めに帰すべき事由とは
「下請け事業者の責めに帰すべき事由がある場合」とは、①下請事業者の給付の内容が3条書面に明記された委託内容と異なる場合、②下請事業者の給付に瑕疵等がある場合に限られます(下請け運用基準第4の4(2))。
①下請事業者の給付の内容が3条書面に明記された委託内容と異なる場合
3条書面とは、下請法3条に定められている書面で、親事業者が下請事業者に交付しなければならない書面のことです。
つまり、親事業者が委託をお願いしたものと違うものが、納入された場合には、そもそも親事業者が発注したものと異なる以上、返品をすることができます。
親事業者が発注したものと異なるものが納入されているのに、親事業者が返品できないとすると、下請事業者のミスの責任をすべて親事業者がとることになってしまうからです。
②下請事業者の給付に瑕疵等がある場合
下請事業者の給付に瑕疵等がある場合にも、返品をすることができます。
瑕疵とは、最近の民法では、契約不適合と呼ばれるものですが、契約の本旨に即しないことを言います。
たとえば、下請事業者に機材の発注を求めたにも関わらず、その機材が壊れており、使うこができない場合などは、契約をした目的などの本旨にそぐわないことから、瑕疵があると言えます。
こうしたものが納入されたとしても、親事業者としては使い道もなく困ることから、返品をすることを許容しております。
仮に、このような場合でも返品ができないとすると、下請事業者のミスの責任をすべて親事業者がとることとなり、親事業者にとって酷ですから、このような運用となっております。
下請事業者に対する返品が認められている期間
「下請事業者の責めに帰すべき事由」があったとしても、いつまでも返品ができるというわけではありません。
いつまでも返品ができるとすると、下請事業者にとっては不利益が大きいものとなります。
下請事業者に対する返品が認められる期間は、下請事業者の給付の瑕疵等の内容や検査方法によって異なっています。
検査によって直ちに発見することのできる瑕疵がある場合
検査によって直ちに発見することができるような瑕疵がある場合でも、検査の方法などによって、返品をすることができる期間が異なります。
すべての物について一括で検査を行う場合
すべての物について、一括で検査を行うような、全数検査の場合には、不合格となった物品等は、受領後に速やかに返品する必要があります(下請運用基準だ4の4(2))。
全数検査を行っており、かつ直ちに発見することができる瑕疵がある場合には、親事業者は、検査の結果すぐに返品をすることが可能なのであり、返品が可能になった以上、ただちに返品することが、下請事業者の利益との兼ね合いから望ましいからです。
なお、検査は、検査のための標準的な期間内に行う必要があり、恣意的に検査機関をのばして、その後に返品をすることが認められません。
ロット単位で抜き打ち検査を行う場合
ロット単位で検査を行った結果、不合格となったロットについては、そのロットの全部を返品することができます。
しかし、それも受領後に速やかに行う必要があります(下請運用基準第4の4(2))。
一方、合格となったロットの中に検査によって直ちに発見することのできる瑕疵があったとしても、原則として返品することはできません。
もっとも、①継続的な下請取引の場合で、②発注前にあらかじめ直ちに発見できる不良品について返品を認めることが合意・書面化されており、③当該書面と3条書面との関連付けがなされている場合には、当該受領に係る最初の下請代金の支払い時までに返品することが認められています。
検査を下請事業者に「書面で」委任している場合
検査を下請事業者に「書面で」委任している場合、下請事業者の検査に明らかなミスがあり、直ちに発見することのできる瑕疵を見逃した場合には、受領後6か月以内であれば返品することが認められます。
「口頭で」委任している場合と異なり、書面をもって正式に依頼をしている以上、親事業者としては、検査を行うという納入された物品について行うべきことをある程度履行しているということになりますから、限定的ではありますが、返品を認めています。
検査を下請事業者に「口頭で」委任している場合
一方、検査を下請事業者に「口頭で」委任している場合には、直ちに発見することのできる瑕疵があったとしても、返品をすることは認められません(下請運用基準第4の4(2)オ・カ)。
この場合、親事業者として求められることをしっかりと行えていないと評価されてしまうので、返品をすることが認められません。
また、そもそも検査をしていない場合も返品をすることができません。
検査によって直ちに発見することのできない瑕疵がある場合
検査にとって直ちに発見することのできない瑕疵がある場合には、以下のように、返品が認められるかが分かれます。
検査を自社で行う場合や検査を下請事業者に「書面で」委任している場合
検査を自社で行う場合や、下請け業者に「書面で」委任している場合に、直ちに発見することのできない瑕疵があった際には、受領後6か月以内であれば返品をすることが認められます。
もっとも、下請業者の給付を使用した親事業者の製品について、一般消費者に対して6か月を超えて保証期間を定めている場合には、その保証期間に応じて最長1年以内であれば返品をすることが認められます(下請運用基準第4の4(2)エ)。
一方、受領後6か月(一般消費者向け保証期間がある場合は最長1年)経過後に返品することは認められません。
これは、たとえ下請け業者との間で、この期間を経過した後も返品することをあらかじめ合合意していたとしても同様です。
検査自体を行わない場合や下請業者に「口頭で」委任している場合
検査自体を行わない場合や、検査を下請業者に「口頭で」委任している場合には、直ちに発見することのできない瑕疵があったとしても返品することはできません(下請運用基準第4の4(2)オ・カ)。
まとめ
ここまで、下請業者さんに対して返品をすることができる場合や、その期間についてご案内しました。
企業経営において、下請法に違反しないかどうかを気にすることは極めて重要です。
しかしながら、下請法に違反しているがどうかを見極めるには、詳細かつ丁寧な専門的判断が必要となります。
正確な専門知識に基づいて判断を行わないと、企業の経営に大きな影響を及ぼすと恐れもありますので、注意が必要です。
下請法についてお悩みの場合、専門としている弁護士に相談することが重要となります。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来30年以上の実績があり、17名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。 また、各分野について専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は、専門チームの弁護士が担当します。まずは、一度お気軽にご相談ください。