会社法は、株主に対し、取締役に対する株主提案権を与えており、企業経営者は予想外の株主からの提案に翻弄されることがあります。このページでは、埼玉県で30年以上、中小企業を中心とする企業法務を扱ってきた法律事務所の弁護士が、会社法の定める株主提案権とそれに対する対処法について、ポイントを絞って分かりやすく解説します。

株主提案権とは?

株主提案権とは、①株主が取締役に対して、とある事項を株主総会の目的とするよう請求する議題提案権と、②株主が株主総会の目的とされている議題について事前に議案を他の株主に通知することを求めたり会議の場で議案を提出する議案提案権議案の通知請求権とがあります。

以下、これらの請求が行われた場合における会社側(取締役、経営陣の側)でどのような検討をする必要があるのかを解説して参ります。

Q.株主から議題提案権が行使された場合に、取締役はどのように対処する必要がありますか?

A.大きくわけて、株主が提案する要件を満たしているかどうか、議題が株主総会の決議事項かどうか、株主提案の時期が要件を満たしているかどうかを検討し、取締役会としてのスタンスを明示するのが望ましいです。

株主が提案する要件を満たしているかどうか

公開会社で取締役会設置会社の場合

要件:総株主の議決権の100分の1以上の議決権又は300個以上の議決権を6ヶ月前から引き続き有する株主に限り、株主提案をすることができます。

(ただし、定款でこの要件を緩和できるので、定款を確認してください。)

このように株主であれば誰もが行使できるものではないことに注意が必要です。

非公開会社で取締役会設置会社の場合

要件:総株主の議決権の100分の1以上の議決権又は300個以上の議決権を有する株主に限り、株主提案をすることができます。

(ただし、定款でこの要件を緩和できるので、定款を確認してください。)

非公開会社では、公開会社と異なり、6ヶ月以上の株式保有が要件から外れますので、ご注意ください。

このように株主であれば誰もが行使できるものではないことに注意が必要です。

取締役会が設置されていない会社の場合

取締役会設置会社とは異なり、株主に要件がありませんので、株主であれば誰もが(議決権のない場合を除く)行使することができるので注意が必要です。

このため、株主はいつでも(議場でも)突然に議題を提案することもできることになります。

議題が株主総会の決議事項かどうか

株主が必ずしも株主総会の決議事項だけを議題として提出してくるかは分かりません。中には取締役会の決議事項である可能性もあり、株主総会決議事項かどうかを確認する必要があります。株主総会決議事項は、会社法309条に普通決議・特別決議・特殊決議が記載されております。

株主提案の時期が要件を満たしているかどうか

株主提案書が代表取締役に到達した日が、株主総会の日の八週間(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前であることが必要となります。この期限を守っていないケースもたまにあり、その場合は、株主提案を取り上げる必要はありません。

(ただし、定款でこの要件を緩和できるので、定款を確認してください。)

取締役会としてのスタンスを明示するとは

最後に、株主提案が有効であった場合に、取締役会としてのスタンスを公表することが少なくありません。他の株主に取締役会のスタンスを明示しておくことで、株主の参考とすることが可能です。

【参考条文】

会社法(株主提案権)
(株主提案権)
第三百三条 株主は、取締役に対し、一定の事項(当該株主が議決権を行使することができる事項に限る。次項において同じ。)を株主総会の目的とすることを請求することができる。
2 前項の規定にかかわらず、取締役会設置会社においては、総株主の議決権の百分の一(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権又は三百個(これを下回る数を定款で定めた場合にあっては、その個数)以上の議決権を六箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き有する株主に限り、取締役に対し、一定の事項を株主総会の目的とすることを請求することができる。この場合において、その請求は、株主総会の日の八週間(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前までにしなければならない。
3 公開会社でない取締役会設置会社における前項の規定の適用については、同項中「六箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き有する」とあるのは、「有する」とする。
4 第二項の一定の事項について議決権を行使することができない株主が有する議決権の数は、同項の総株主の議決権の数に算入しない。

Q.株主から議題提案権が行使され、会社としてこれを受理したため、他の株主に通知をしました。すると、当該株主から、株主総会の雲行きを案じてか、「議題を撤回したい。」と言われました。会社は、これを撤回しなければなりませんか?

A.株主提案権の行使が有効に行われた場合には、株主提案はその効力が発生しておりますから、会社の同意なくして取下げ又は撤回をすることはできないと考えられます。

したがって、取締役会としては、取下げ又は撤回に応じても応じなくても構いません。

これに応じれば、事務手続上や株主総会の負担は減ると思いますが、これに応じず、一度、当該議案を株主総会で否決しておくことで、連続した提案に制限(泡沫提案の制限)を加えることができる可能性があるということも考えられます。会社法の条文はこちらです。

第三百四条 株主は、株主総会において、株主総会の目的である事項(当該株主が議決権を行使することができる事項に限る。次条第一項において同じ。)につき議案を提出することができる。ただし、当該議案が法令若しくは定款に違反する場合又は実質的に同一の議案につき株主総会において総株主(当該議案について議決権を行使することができない株主を除く。)の議決権の十分の一(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の賛成を得られなかった日から三年を経過していない場合は、この限りでない。

なお、事務的な部分では、取下げの意向を受けた場合(少なくとも書面で残してもらうべきです)、招集通知の発送前であればとくに負担はありませんが、発送後の場合には、改めて株主に通知をする必要が出て参ります(上場企業では、オンラインでの修正(会社法施行規則65条3項)可と考えられます)。

Q.取締役が株主提案を無視したらどうなりますか?

A.取締役に対して過料の制裁が科される可能性がありますので、注意が必要です(会社法976条19号)。

Q,議案提案に対する対処法は?

A.株主は、株主総会の場で、提出されている議題に対し、議案を提出することができます(会社法304条・325条)。

これに対して、会社は、法令又は定款に違反する提案ではないかどうか、過去に提案された議案であり議決権の10分の1以上の賛成が得られなかった議案と実質的に同一であり前回から3年を経過していないかどうか、をチェックします。これに該当すれば、その提案を拒絶できます(会社法304条但書き、325条)。

Q.議案の通知請求に対する対処法は?

A.株主提案権と重複する部分もありますが、公開会社では総株主の議決権の100分の1以上または300個以上の議決権、さらにその議決権を6ヶ月以上保有していることが必要であり、非公開会社の取締役会設置会社では6ヶ月保有要件は不要ですがそれ以外は同様で、取締役会非設置会社ではこのような要件はありません。mた、請求できるのは株主総会の8週間前までです。これを過ぎていれば、取り扱う必要はありません。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 時田 剛志
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