取締役を解任したい株主の方や株主から解任された取締役の方に向けて、会社法の定める取締役の解任方法と注意点について解説します。取締役の解任は、株主総会により行うことができます。しかし、解任の正当な理由がなければ、取締役は会社に対して損害賠償請求をすることが可能です。このページでは、埼玉県で30年以上、企業法務を扱ってきた法律事務所の弁護士が、会社法の定める取締役の解任についてポイントを絞って分かりやすく解説します。
はじめに
株主の方、会社経営者の方は必読です。
このページでは、埼玉県で30年以上、企業法務を扱ってきた法律事務所の弁護士が、会社法の定める取締役の解任方法と注意点について、ポイントを絞って分かりやすく解説します。最初に、会社法の定める取締役の解任手続について説明し、その上で、実務上は問題になることの多い「解任の正当な理由」について説明します。
解任の正当な理由がないのに取締役を解任した場合には、解任された取締役は、会社に対し、損害賠償として残任期分の報酬請求をすることがあり、金額も大きくなりがちなため、皆さまの関心事かなと思います。
それでは、見て参りましょう。
会社法の定める取締役を解任するための手続とは?
以前の記事でお話しをしましたとおり、株主は、会社の実質的な所有者といっても過言ではありません。そんな株主には、取締役を選任する権限があるのと同様に、解任する権限があります。
株主総会の決議により取締役を解任することが可能(会社法339条)
会社法339条を見てみましょう。
1 役員及び会計監査人は、いつでも、株主総会の決議によって解任することができる。
2 前項の規定により解任された者は、その解任について正当な理由がある場合を除き、株式会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができる。
このように、株主は、株主総会を通じて、いつでも、事由のいかんにかかわらず、取締役を選任したのと同様、株主総会の決議により、解任することが可能です。
取締役を解任する決議の種類は?(会社法341条)
かつて、会社法が制定される以前には、取締役の地
位の安定に配慮がなされ、株主総会特別決議を要するものとされておりました。
しかしながら、現在は、株主総会により取締役をコントロールすることに重きが置かれており、株主総会普通決議により解任することが可能です。
会社法の規定を見てみましょう。
第三百九条第一項の規定にかかわらず、役員を選任し、又は解任する株主総会の決議は、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(三分の一以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)をもって行わなければならない。
このように、会社それぞれのスタンスによっては、カッコ書きにあるとおり、定款により、解任要件を過重することは可能です(会社法341条)。
解任決議がなされた場合にはいつからその効力が発生するか(取締役ではなくなるか)?
取締役が解任された場合、その効力は直ちに生じると考えられます。
判例によれば、「告知」さえも不要と解されております(最判昭和41年12月20日)。
解任される正当な理由がないのに解任された取締役はどうなる?
取締役の地位
上で述べたとおり、解任に正当な理由があるか否かにかかわらず、株主総会により解任された取締役はその地位を直ちに失います。
しかし、その反面、法律上、解任に正当な理由がない場合に限り、取締役は、会社に対し、損害賠償請求を求めることが可能です。
「正当な理由」がない場合には損害賠償請求が可能!
会社が、正当な理由がないのに、取締役を任期満了前に解任した場合には、会社は取締役に対して解任によって生じた損害を賠償しなければなりません(会社法339条2項)。
その趣旨は、裁判例によれば、株主に解任の自由を保障する一方、取締役の任期に対する期待を保護し、両社の利益の調和を図ることにあり、一種の法定責任であると解されております(大阪高判昭和56年1月30日)。
「正当な理由」はどのような場合に認められるのか?
会社法339条2項の「正当な理由」は、会社において取締役として職務の執行を委ねることができないと判断することもやむを得ない客観的合理的理由が存在する場合を指します。
具体的には、
・身心の故障
・職務への著しい不適任(経営能力の著しい欠如)
などが挙げられます。
なお、このような事由があることは、裁判において、役員を解任した会社に主張立証責任があると考えられます。つまり、立証できなければ、会社側が負けるということですので、注意が必要です。
「正当な理由」は解任の時に知っている必要があるのか?
これも条文の解釈の問題になります。
裁判例や学説によれば、解任の正当な理由となる事情は、解任当時会社が認識していたものに限られない、と解するのが主流と考えます。
学説では、正当理由は解任決議時に客観的に存在していれば十分であり、たとえ多数派株主が当該理由を認識していなかったとしても、損害賠償責任は否定される(近藤光男「最新株式会社法〔第7判〕」と解説されているものがあります。
裁判例では、
「会社法339条は、1項において株主総会決議による役員解任の自由を保障しつつ、2項において当該役員の任期に対する期待を保護するため、解任に正当な理由がある場合を除き、会社に特別の賠償責任(法定責任)を負わせることにより、会社及び株主の利益と当該役員の利益の調和を図ったものと解されることに加え、同条において、役員を解任するに当たり、会社の故意過失や当該役員への解任事由の告知は要件とされていない上、「正当な理由」を会社が認識していた事情に限定する旨の規定も存在しないことからすれば、正当な理由の根拠となる事情は、本件解任時点で客観的に存在していれば足り、被告らが認識していることまで要しないというべきである」(東京地裁平成30年3月29日判決・判例タイムズ1475号214頁参照)、
「会社の損害賠償責任は、任期終了までの在任に対する取締役の期待を保護し、当該取締役に生じた損害を填補する法定責任であって、会社の過失を要件とせず、取締役への告知も必要ではいと解されることからすると、取締役の解任の理由は、会社が解任の際に理由としたものに限定されず、また、会社が当該解任の時点で把握していた事実に限定されず、客観的に存在すれば足りるというべきである」とした東京地判平成25年11月26日判決、
「『正当な理由』について、当時の会社が認識していた事由や解任決議時に挙げられた事由に限定されると解すべき法令上の根拠はない」と述べた東京地裁平成27年7月14日判決、さらに、高裁の判断として、福岡高判平成27年1月16日判決というものがあります。
一方で、そうではない見解を示す裁判例(東京地判平成22年1月26日判決)もあり、最高裁判所などで決着のついていない争点であるとはいえます。
損害の範囲はどの程度認められるのか?
原則として、解任時の残任期について認められると考えるのが主流です。
会社法コンメンタール7(加藤貴仁)では、取締役の任期を伸長する判断をしたのは会社自身であるため、取締役の残任期が長期にわたることは損害賠償額を制限すべきではないと評価しております。
ただし、例えば、会社法改正により任期10年が認められるようになったため、以下のように損害の範囲を限定的に解する見解もないわけではありません。
得津晶『株主総会決議による任期10年の取締役解任の「正当な理由」』(ジュリスト1477号・99頁以下、2015年)によれば、102頁右下において、「本判決がXの請求を否定したのは,長期の残存任期を有する役員の解任が,会社法339条2項責任によって不当に制約されてはならないという考慮に基づくものであって,それを解任の正当な理由という法的構成を採用して説明したに過ぎないと解される。となれば,あるべき解釈論としては,会社法339条2項の「損害」の範囲について,平成17年改正前の利害調整にならって任期全期間ではなく任期2年を超えない部分の報酬に限定するという解釈や,報酬を自動的に損害とするのではなく,任期を信頼して現実に取締役が支出した額・機会費用等に限定する解釈といった新しい解釈論が待たれるところ」と評釈されております。
裁判例においても、東京地判平成27年6月29日・判例時報2274号113頁(乙33)は、原告らが退任から本来の任期の終期までの約5年5か月分の報酬を損害賠償請求した事案について、「平成二三年一月から平成二八年六月までの五年五か月以上もの長期間にわたって、被告の経営状況や原告らの取締役の職務内容に変化がまったくないとは考えがたく、原告らが平成二八年六月までの間に上記の月額報酬を受領し続けることができたと推認することは困難であって、その損害額の算定期間は、原告らが退任した日の翌日から二年間に限定することが相当である。」と判示しているものが存在します。
この点についても、最高裁判決などで決着のついていない争点であるといえます。
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