新たに従業員を雇い入れる際に試用期間を設けたが、試用期間中に業務に対する適性がない等の問題があることが判明したので雇用契約を解消したいという事態に遭遇することは珍しくありません。
今回は、試用期間中の従業員を解雇できるかというテーマについて解説をしていきます。
試用期間とは?
従業員を雇用するにあたり、当該従業員の業務遂行能力や業務適性を確かめるため、本採用とする前に一定の期間を置くことがあるのですが、当該期間を試用期間といいます。
試用期間を設定する労働契約の法的性質については、一般に、解約権留保付の雇用契約であると考えられています。
試用期間が設定されているといえども、従業員が労務を提供して使用者から給与をもらうという形式から両者の関係性は雇用契約に変わりはないが、他方で、従業員の能力や適性を見極めるという試用期間の趣旨から従業員側に問題があることが判明した場合に備えて使用者に解約権が留保されるというものです。
試用期間が設定された雇用契約を解消することの意味合い
従業員と使用者との間で雇用契約が成立している以上、試用期間中に使用者が当該従業員との雇用関係を解消しようとする行為は解雇にほかなりません。
使用者が従業員を解雇しようとする場合には労働契約法による厳格な解雇規制に服することとなりますが、試用期間中の解雇については試用期間が設けられた趣旨により多少の修正がなされています。
判例は、試用期間を設定する雇用契約が使用者に解約権を留保する趣旨について、従業員の採用決定当初にはその者の資質、性格、能力その他管理職要員としての適格性の判断資料を十分に収集することができないため、後日の調査や観察に基づく最終決定権を使用者に留保するものであるとし、そのため、留保された解約権に基づく解雇については通常の解雇の場合よりも広い範囲の自由が使用者に認められるが、留保解約権の行使は解約権留保の趣旨・目的に照らして、客観的に合理的な理由が存在し、社会通念上相当として是認しうる場合にのみ許される、としています。
そこから、使用者は試用期間中であることを理由に自由に従業員を解雇できるわけではないものの、通常の解雇と比較した場合にはより広い範囲において解雇が認められる可能性があるということになります。
なお、使用者に解約権が留保された趣旨から、使用者は解約権行使の際、従業員の採用当時には把握できておらず、試用期間中の従業員の勤務状況等により新たに判明した事実を根拠とする必要があります。
試用期間中の従業員について解雇を検討するパターン
使用者が試用期間中の従業員について解雇を検討するパターンとして、以下のものが考えられますが、それぞれのパターンについて使用者が解雇を行おうとする場合に注意すべき点に触れます。
履歴書の経歴詐称が発覚した
履歴書における経歴詐称はそれ自体としては問題ですが、使用者としてそれを理由に解雇に踏み切るか否かについては慎重に判断する必要があります。
従業員が行った経歴詐称が当該従業員の労働能力と関係がない、または、経歴詐称の内容が軽微なものである場合には解雇の有効性が否定される可能性があります。
解雇の理由となる経歴詐称は、①使用者に従業員の労働力の評価を誤らせ、使用者にとって不適当な者を採用させ、使用者による採用後の従業員の適正な配置を誤らせるもの、②使用者と従業員の信頼関係を基礎とする労働契約において、当該信頼関係を破壊する内容であるもの、③学歴等により賃金体系を異なるものとしている使用者の企業秩序を侵害しようとするもの、とされていますので、使用者は解雇の前提として、問題とされる経歴詐称がいずれかのケースに該当するか否かを検討する必要があります。
面接時に保有していると主張していたスキルや経験を有していなかった
主として中途採用者にみられる問題であり、上記の経歴詐称と重なる部分がありますが、この場合、面接時に主張された当該従業員の具体的なスキルや経験を前提として当該従業員の業務内容や待遇が決定されたか否かが重要となります。
使用者が行う特定の業務のスペシャリストとして厚待遇で採用された従業員が当該業務をまったくこなせないというような場合は解雇の有効性は認められやすいと考えられますが、とあるスキルを有しているということが採用の大きな要素となったものの、その後は他の従業員と同種の業務に従事している場合や使用者が当該スキルとは離れる業務を指示した場合にそれらの業務をこなせなかったということを理由とする解雇は難しいという印象です。
業務遂行能力が低い
この問題については従業員が新卒で採用された場合と中途で採用された場合とで解雇の有効性判断の程度が異なってきます。
新卒で採用された従業員の場合、業務遂行能力が低いことは当然であり、使用者として当該従業員に対して適切な指導を行ったか、場合によっては配置転換等を検討したかという配慮が求められます。
試用期間は3カ月間や半年間というスパンで設定されることが多くなっていますが、そのような長期とはいえない期間で新卒従業員の業務遂行能力を見極めることは難しく、業務遂行能力が低いことを理由とする解雇の有効性判断は厳しいものとなる可能性が高いと考えられます。
他方で、中途で採用された従業員の場合、一定程度の業務遂行能力を持ち合わせていることが想定されますので、新卒従業員に対する解雇有効性判断よりも条件は緩和されますが、使用者として業務遂行能力改善のための配慮は依然として求められますので、使用者としてやるべきことをやったが改善が見込めないという段階で解雇に踏み切るべきということになります。
勤務態度が悪く協調性が欠如している
この問題は従業員の振る舞いが使用者の企業秩序にどの程度の影響を及ぼしているかにより解雇が有効となるか否かの結論が異なります。
当該従業員の態度は悪いが業務に支障が出ていないという場合に解雇を行うのは行き過ぎであるという判断になります。
当該従業員の態度により業務に多大な支障が生じているという場合でも、使用者がそれまでに当該従業員に対して適切な注意・指導を行っていたか、使用者の注意等によっても当該従業員の態度に改善がみられなかったのかという観点を踏まえての解雇の有効性判断となりますので、使用者としてやるべきことはやったといえる状況にしておく必要があります。
各パターンに共通する留意事項
いずれの場合についても解雇の有効性判断は裁判所による事後的な判断となり、そこでは客観的な資料がものを言いますので、当該従業員の問題行動の内容、使用者が行った注意・指導の内容、その後の当該従業員の様子、当該従業員の言動がもたらす周囲の従業員に対する影響等について、関連する書類、メール、他の従業員に対する聞き取り結果、防犯カメラ映像、録音等の客観的資料を残しておくことが重要となります。
また、経歴詐称の場合はさておき、その他のパターンについては、使用者として試用期間中に問題となる従業員の改善に努めたが、試用期間が経過してもその改善が見込めなかったということを示す意味で、試用期間満了時に本採用拒否という形をとることが望ましいと考えます。
やむを得ず試用期間途中で従業員を解雇する場合もあり得ますが。解雇までの期間が短くなればなるほど、裁判所は使用者としてまだやるべきことがあったのではないかとの判断になります。
試用期間を設定した従業員を解雇する場合の手続面
試用期間中の従業員の問題行動を理由として当該従業員を解雇する場合には、雇用契約書や就業規則において、試用期間を明示するとともに試用期間中の従業員に対する解雇事由を定めておくことが望ましいです。
試用期間中の解雇も労働契約の解消という意味で通常の解雇と変わらないため、解雇予告(30日前の予告もしくはそれに満たない分の解雇予告手当の支払い)の必要があります。
なお、従業員を採用してから14日が経過していない場合には解雇予告は不要ですが、14日を待たずに従業員を解雇する場合には相当の理由がないと解雇の有効性が認められませんので、あまり想定されない事態ではあります。
まとめ
今回は、試用期間中の従業員を解雇できるかというテーマについて解説をしてきました。
試用期間という制度の趣旨から解雇のハードルは下がっていると言えますが、使用者側で従業員の問題行動に関する客観的な資料を収集しておく必要があることや当該従業員が改善するための適切な手段を講じておく必要があることについては通常の解雇の場合と大きく変わりませんので、試用期間中であるといって安易に従業員を解雇することは危険です。
試用期間中の従業員の解雇についてお悩みの方は専門家である弁護士に相談の上、方針を決めていただくことが重要かと思います。
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