下請法で定められている下請代金の減額の禁止とは何なのか、減額の禁止に違反するか問題になるのはどのような場合か、違反しないようにするための条件、また、最近の違反事例について述べてみました。

1 下請代金の減額の禁止とは

親事業者が下請事業者に製造委託などをした場合、下請法は、親事業者の11の行為を禁止しています。その中の一つが、下請代金の減額の禁止、すなわち一度決めた下請代金の額を、下請事業者の責に帰すべき理由がないのに減額することです(下請法4条1項3号)。
このような減額の禁止が定められたのは、一般的に親事業者に対する下請事業者の立場が弱く、一度、下請代金の額を決めても、親事業者の都合で下請代金の減額を要請され、下請事業者がこれを認めざるを得ないことが多いからです。
このように親事業者と下請事業者の力関係に基づく規定ですから、親事業者が下請代金の減額を要請し、親事業者と下請事業者との間で話し合った結果、下請代金の減額をしたような場合でも、減額の禁止、すなわち下請法4条1項3号に反することになります。

2 減額とは

下請代金を直接減額するだけではなく、リベート、協賛金、協力金、決算、コストダウン、協力費などの名目で、実質的に下請代金を減額することも含まれます。リベートなどの名目で、下請代金の額を減じることが業界の慣行になっている場合でも、減額は下請法に反することになります。

3 下請事業者の責に帰すべき理由

どのような場合でも、下請代金を減額してはならないということではなく、下請事業者の責に帰すべき理由があるときは、親事業者は下請代金を減額することができるのですが、公正取引委員会・中小企業庁が発行している「下請取引適正化推進講習会テキスト」によると、次のような場合には、親事業者は下請代金を減額することができるとされています。

① 下請事業者の製品に瑕疵がある、あるいは納期の遅れがあるなどの理由によって、親事業者が受領を拒否し、返品した場合に、その給付にかかる下請代金の額を減じる場合
② 瑕疵がある、納期の遅れがあるなどの理由によって、受領拒否、返品ができるのに、そうしないで、親事業者自ら手直しをした場合に、手直しに要した費用を減じる場合
③ 瑕疵がある、納期の遅れがあるなどの理由によって商品価値の低下が明らかなときに、客観的に相当と認められる下請代金の額を減じる場合

※ なお、上記の「下請取引適正化推進講習会テキスト」は下請法の内容・運用、下請法で許される場合と許されない場合の例などが詳しく載っており非常に参考になります。ネットによって簡単に取得できますので、下請法が問題になった時は、ぜひ参考にされるとよいと思います。

4 問題になる事例

以下、減額の禁止について問題となる事例について触れたいと思います。

⑴ 単価改訂を遡って適用する場合

親事業者と下請事業者の間で製品の単価引き下げの合意をした場合、その後発注する製品について新単価を適用するのはもちろん構いませんが、すでに発注した製品に遡って新単価を適用すると、減額の禁止に反することになります。

⑵ 1円未満の端数があった場合の処理

下請代金に1円未満の端数があった場合、これを四捨五入しても切り捨てをしても、減額の禁止には反しないとされています。

⑶ 消費税の支払い

親事業者が下請事業者に対し、本来支払うべき消費税額相当分を支払わない場合は、減額に禁止に反することになります。

⑷ 振込手数料を下請事業者の負担とする場合

このような場合も多いことと、金額が多くないことを考慮してのことかと思われますが、親事業者が下請事業者に発注する前に、振込手数料を下請事業者の負担とする旨の書面での合意がある場合は、振込手数料を引いて支払っても、減額の禁止には反しないという扱いがされています。もちろん、実際にかかった振込手数料以上の金額を差し引くことはできません。

⑸ いわゆるボリュームディスカウント

例えば、親事業者が下請事業者に対し、一定期間内に、一定数量を超えた発注をした場合に、下請事業者が親事業者に対して割戻金を支払うと合意するような場合です。
このようなボリュームディスカウントについて、次の要件を満たす場合は、減額の禁止に違反しないとされています。。

① ボリュームディスカウントが合理的であること

合理的とは、発注数量の増加とそれによる単位コストの低減により、ディスカントの対象になる品目の取引において、ディスカウントをしてもなお、下請事業者の得られる利益が増加することを言います。

② 次のような書類上の要件を満たすこと

・ ディスカウントの内容が取引条件として合意・書面化されている。
・ この書面の記載と3条書面に記載されている下請代金の額を合わせて、実際の下請代金の額とすることが合意されている。
・ 3条書面とディスカウントの内容が記載されている書面との関連付けがされている。

⑹ 原材料価格の上昇、下落

親事業者が他から購入する原材料の価格が上昇し、利益を確保することが難しくなったため、すでに下請事業者に発注していた製品の価格を引下げるよう下請事業者に要請し、引下げた価格を親事業者が払えば減額の禁止に反することになります。
また、下請事業者が使用する原材料の価格が下落したことを理由に、すでに下請事業者に発注していた製品の価格を引き下げるよう要請し、引下げた価格を親事業者が支払えば、同じく減額の禁止に違反することになります。

上記の場合、下請事業者が減額に応じ、親事業者と下請事業者の間で減額の合意が成立した場合でも、減額の禁止に反することになります。減額の禁止は、立場の弱い下請事業者を保護するためのものだからです。

なお、上記の場合、すでに発注した製品ではなく、今後発注する製品についてであれば、親事業者が価格の引き下げを下請事業者に要請し、下請事業者が合意した場合は、減額の禁止にはあたらず、買いたたきの禁止など他の下請法の禁止に当たらない限り、下請法上の問題はありません。

ちなみに、減額の禁止と買いたたきの禁止ですが、減額の禁止は、すでに発注した商品について問題になるのに対し、買いたたきの禁止は、今後発注する商品について問題になるという違いがあります。

5 最近の勧告例

公正取引委員会は、下請法に違反した親事業者に対して、違反行為の是正やその他必要な措置を取ることを勧告することができます。公正取引委員会のホームページにある最近の勧告例をいくつかあげてみます。

① 親事業者は、A社に対して販売する食料品、飲料品の製造を下請事業者に委託していたが、約1年間、「写真代」を下請代金から減じていいた。減額金額は、下請事業者46社に対し、総額3628万847円だった。

② 親事業者は、自社が販売またはレンタルするユニットハウスに使用する資材の製造、その他を、下請事業者に委託していたが、約1年間、「早期支払割引料」を下請代金から減じていた。減額金額は、下請事業者66名に対し、総額1911万9134円だった。

③ 親事業者は、服飾服資材またはその半製品の製造を下請事業者に委託していたが、約1年間、「歩引」を下請代金の額から減じていた。減額金額は、下請事業者24名に対し、2015万166円だった。

④ 親事業者は、家電製品の配送、設置を下請事業者に委託していたが、下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、約1年間、「CS管理費」「防犯カメラ代」を下請代金の支払金額から減じていた。減額金額は、下請事業者12名に対し、2882万6725円だった。

⑤ 親事業者は、下請事業者が納品責任を負うべき場所を物流センターと指定した食料品などについて、以前は、物流センターの運営などにかかる費用を徴収することなく、物流センターに納品させていたが、下請代金の単価改訂の機会及び物流センターに納品せず自社の各店舗などに直接納品するか否かの選択の機会を与えることなく、約2年近くにわたって、「センターフィー」を下請代金の額から差し引いていた。減額金額は、下請事業者31社に対し、総額3725万4503円だった。

6 まとめ

下請法違反の中でも、下請代金の減額禁止違反は圧倒的に多い類型です。しかも、上記の5にある勧告例を見ると、明らかに下請代金の減額禁止にあたるというものが多いように思います。
会社のコンプライアンスという点からも、親事業者は下請代金の減額禁止、その他の下請法の禁止規定に違反しないよう注意する必要がありますし、下請事業者は、親事業者から無理なことを言われたときは、下請代金の減額禁止、その他の下請法の禁止規定に違反しないかを考え、違反すると考えられる場合は、下請法を親事業者との交渉の武器にするとよいと思います。

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■この記事を書いた弁護士
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代表・弁護士 森田 茂夫
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