解雇は慎重に判断、選択しないと、後々不当解雇ということで紛争に発展する可能性があります。安易な解雇は危険です。そこで本記事では、会社の経営者(使用者)が社員(従業員)を解雇する場合の手順や問題点について、事例を交えながら、弁護士が解説していきます。
社員(従業員)を解雇する方法
解雇制度の概要(解雇の種類)
前提として、日本における、解雇に関する基本的なルールを確認しておきます。
解雇は、大きく普通解雇(整理解雇を含む)と懲戒解雇の2つに分かれます。
① 普通解雇(整理解雇を含む)
普通解雇とは、従業員の能力不足や協調性の欠如、会社の経営悪化、就業不能など、社員の労務提供が不十分な場合に行われる解雇をいい、懲戒解雇以外の解雇をさします。
普通解雇を行うには、厳しい要件を満たす必要があります。そのため、使用者側にとって非常に高いハードルが課されています。
なお、普通解雇のうち、人員の整理を目的として行われる解雇は整理解雇と呼ばれ、これも普通解雇の一種です。
② 懲戒解雇
これに対して懲戒解雇は、従業員が就業規則などで定められた懲戒事由に該当することを理由に、懲戒処分として解雇を行うことをいいます。秩序に違反した社員に対して行う制裁的意味合いを持つ解雇です。
普通解雇と懲戒解雇との違い
両者とも解雇であり、結果として使用者と労働者の雇用関係が消えるという点では同じです。
しかし、懲戒解雇の場合、退職金の全部又は一部が受け取れない場合があります。また、失業給付の受給が遅くなるなど、普通解雇に比べて社員に与える影響は大きくなります。
そのため、必然的に懲戒解雇のほうが、普通解雇よりも解雇処分の正当性が厳しく判断されることになります。
あまり深く考えずに、問題社員だからという理由で懲戒解雇にしてしまうと、逆に不当解雇ということで会社が訴えられてしまう危険性があります。
解雇が適法といえる場合
解雇の合理性・社会的相当性
解雇が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、解雇権を濫用したものとして無効とされます(労働基準法第18条2項)。
すなわち、解雇が有効とされるためには、解雇権の濫用とされないだけの①合理的な理由と②社会的相当性が必要なのです。
そこで、解雇を実行する前には、当該事案に①合理的な理由と、②社会的相当性があるかどうかを十分に調査・検討する必要があります。
また整理解雇の場合については、裁判所は、以下のような4つの要件を、整理解雇の判断要素として掲げています。
1 人員削減の必要性
2 解雇回避努力
3 人選の合理性
4 手続の妥当性
懲戒解雇の場合でも、単に懲戒事由に該当するというだけで会社が自由に従業員を解雇できるわけではなく、普通解雇と同様、解雇理由の合理性・社会的相当性が要求されます(労働契約法第16条)。懲戒解雇であっても、あくまでも法律上は「解雇」に分類されるため、解雇に関する法規制が全般的に適用されることに注意が必要です。
例えば、労働者の行為の悪質性が極めて高いことや、再三の指導にもかかわらず業務態度に改善が見られないことなどの事情を考慮して、解雇が真にやむを得ないと判断できることが必要となります。
就業規則の規定
解雇を行う場合、それが経営秩序違反に対する制裁として行われるいわゆる懲戒解雇であろうと、それ以外の普通解雇(通常解雇)であろうと、原則として就業規則(もしくは労働協約)において、解雇事由が定められていることが必要となります。
そこで、問題が顕在化する前に、就業規則にきちんとした定めが置かれているかをチェックしておくことをお勧めします。
特に、従業員が10人未満の場合、就業規則の作成義務はありませんが、このような場面では就業規則が大きな意味を持ちますので、義務がない場合でも、就業規則を作成しておくことが望ましいことは間違いありません。
即時解雇するには解雇予告手当の支払いが必要
使用者が労働者を解雇しようとする場合、解雇予告義務および解雇予告手当の支払義務が規定されています(労働基準法第20条第1項)。
すなわち、使用者が労働者を解雇しようとする場合、以下のいずれかの方法を採ることが必要になります。
①解雇する従業員に対し、少なくとも30日前に解雇の予告をする
②解雇の予告を行わない場合は、解雇と同時に30日分以上の平均賃金を解雇予告手当として支払う
また、予告から解雇までの日数が30日に満たない場合は、その不足日数分の平均賃金を解雇予告手当として支払う必要があります。
【原則】懲戒解雇の場合であっても、解雇予告義務・解雇予告手当の支払い義務がある
解雇予告義務および解雇予告手当の支払義務(労働基準法第20条第1項)は、懲戒解雇の場合にも適用されます。
つまり、使用者が労働者を即時解雇したいときは、たとえ懲戒解雇の場合であっても、30日分以上の平均賃金に相当する金銭を労働者に対して支払われなければならないのが原則です。
【例外】解雇予告除外認定を受ければ即時解雇ができる
例外的に従業員に非があり懲戒解雇を行うケースでは、所轄労働基準監督署長の解雇予告除外認定を受けることで、解雇予告手当を支払う必要がなくなる場合もあります。
解雇予告除外認定とは?
以下のような場合には、解雇予告義務、解雇予告手当を支払う必要がなくなります。
①天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合
または
②労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合
ただし、解雇が上記の事由に該当するかどうかについては、会社が独自で判断して良いわけではなく、所轄の労働基準監督署長による認定を受けることが必要です(労働基準法第20条第3項・第19条第2項)。
解雇予告除外認定が行われるケース
労働基準監督署が、解雇予告除外認定の可否を判断するにあたっては、会社の就業規則などで定められる懲戒事由とは別に、通達で定められた独自の基準を用いて判断されます。
特に「労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合」については、通達によって次のように示されています。
<労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合>
① 事業場内で、盗取・横領・傷害など刑法犯に該当する行為があった場合(極めて軽微なものを除く)
② 事業場内で盗取・横領・傷害など刑法犯に該当する行為が、(極めて軽微な行為であったとしても)会社があらかじめ防止措置を講じていたことが客観的に認められ、なおかつ繰り返し行われた場合
③ 事業場外で盗取・横領・傷害など刑法犯に該当する行為が行われ、それが会社の名誉や信用を失墜させたり、取引関係に悪影響を与えたり、労使間の信頼関係を喪失させたりするものである場合
④ 事業場内で行われた賭博や風紀びんらんなどにより職場規律を乱し、他の労働者に悪影響を及ぼす場合
⑤ 賭博や風紀びんらんが事業場外で行われたとしても、それが会社の名誉や信用を失墜させたり、取引関係に悪影響を与えたり、労使間の信頼関係を喪失させたりするものである場合
⑥ 雇い入れの際に採用条件の要素となるような経歴や、不採用の原因となる経歴を詐称した場合
⑦ 転職した場合
⑧ 2週間以上正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合
⑨ 出勤不良であり、数回にわたって注意を受けても改めない場合
上記のように、労働者に対して解雇予告の保護を与える必要がない程度に、重大かつ悪質な違反行為があったケースに限って、解雇予告除外認定が行われるということになります。
解雇予告除外認定の手続きの流れ
それでは、会社が解雇予告除外認定を受ける際の手続きについて確認していきます。
①労働基準監督署に解雇予告除外認定の申請を行う
まず、労働基準監督署に対して申請が必要になります。
ただ、解雇予告除外認定の申請にあたっては、単に申請書を提出すれば良いというわけではありません。解雇予告義務などを免除することが相当であることを証明するための添付書類を提出する必要があります。
②労働基準監督署が会社や労働者に対して事情聴取を行う
つぎに、解雇予告除外認定の審査が行われます。
しかしこれは、単なる書面審査のみで完結するものではありません。通常は、関係者に対する事情聴取が行われます。労働者本人のほか、使用者側も、例えば取締役や上司、同僚・人事担当者など、解雇対象労働者の関係者に対して幅広く事情聴取が行われ、場合によっては相当大掛かりな調査になるケースもあります。
③解雇予告除外認定の可否が判断される
以上の申請→審査という過程を経た上で、ようやく判断がされます。正式な審査結果は、労働基準監督署から会社へ通告されます。
そして労働基準監督署から解雇予告除外認定が下りれば、ようやくそれで労働者を解雇予告手当なしで即時解雇することが可能になります。
事案にもよりますが、①申請→②審査→③認定までには、最短でも1週間~1か月近く期間がかかる場合もあるようです。
解雇予告除外認定を申請する前に押さえておくべき注意点
会社が解雇予告除外認定の申請をする場合、上記の流れを見てお分かりなように、会社には相当程度の手間と労力が必要となります。
そのため、30日分の平均賃金にあたる解雇予告手当の支払いを省略するためだけに解雇予告除外認定の申請を行うことは、費用対効果が合わないというのが実情といえます。
①証拠資料の確保や事情聴取に手間と労力がかかる
申請の段階で、会社は、解雇予告手当の支払いを不要とする根拠事実を立証する責任を負います。
そのためには、労働者の帰責性を立証するための証拠を十分に準備しなければなりません。
また、会社側の関係者については、労働基準監督署による事情聴取が実施されるため、通常業務の時間を割いて事情聴取に協力、対応することが必要になります。
②認定されない可能性も十分にある
前述したように、解雇予告除外認定が行われるのは、労働者に対して解雇予告の保護を与える必要がない程度に、重大かつ悪質な違反行為があったケースに限られます。
そのため、せっかく苦労して申請を行ったとしても、結局認定が下りずに解雇予告手当を支払われなければならない可能性も十分考えられます。
その場合、申請にかけた労力と費用が無駄になってしまうのです。
③「解雇予告除外認定」=「解雇の正当性・有効性を約束するもの」ではない
仮に解雇予告除外認定が行われたとしても、それはあくまでも労働基準監督署の判断に過ぎず、その後に労働者側から解雇の有効性を別途争われる可能性は依然として残ります。
つまり、本質的な問題は、解雇予告除外認定を行うかどうかよりも、そもそも労働者を解雇できる場合なのかどうかという点にあります。
そこで改めて、解雇ができる場合か、場合ごとに分けて解説していきたいと思います。
問題のある社員を解雇する方法
大きく分けて以下のようなケースが多いと思われます。
①労働能力に問題がある場合
②懲戒事由に該当するような非行がある場合
③健康状態に問題を抱えている場合
④破産など経済的に問題を抱えている場合
以下、順にみていきます。
①労働能力に問題がある場合
就業規則に「勤務成績又は能率が不良で就業に適しないと認められる場合」などと規定がある場合、成績不良等を理由として普通解雇できる場合があります。
しかし、経営者が、単にこの労働者は労働能力に問題があると漠然にあるいは直感で感じただけでは足りません。あとで解雇の正当性が争われた場合に、客観的にも理由の合理性が説明できなければなりません。
そこで、労働能力についての評価の基準を明確にした上で、そこに達していないことが照明できるような資料を集めておくことが必要となります。
また、労働能力が劣っているとしても、いきなり解雇を言い渡すことは避けなければなりません。解雇はあくまで最終手段です。
そこでまずは、改善のための注意・指導を行う、解雇もありうる旨の警告を伴った観察期間を設け、従業員が努力により労働能力を向上させることのできる時間的猶予を与えることが必要です。
判例においても、「解雇事由は極めて限定的であって、労働能力が平均的な水準に達していないというだけでは解雇理由として不十分であり、著しく能力が劣り、しかも向上の見込みがないときでなければならない」としたものがあります。
②懲戒事由に該当するような非行がある場合
就業規則等の懲戒事由に該当するような非行がある場合でも、いきなり解雇を選択した場合は、解雇が無効と判断される可能性があります。
従業員に反省の機会を与えるとともに、解雇の正当性を基礎付ける資料のため、問題を起こした従業員に詳細かつ具体的な始末書を提出させたり、書面による注意をしたりして、それらを資料として残しておくことが重要です。
口頭による注意だけではいざ紛争となった場合に、言った/言わないの水掛け論になり、解雇の正当性を立証することができず、解雇が無効とされてしまうことにもなりかねません。
また、解雇は懲戒処分のなかでも最も不利益の大きな処分ですから、減給や降格など他の軽い処分を用いたあとでなければ、無効とされる可能性もあります。
判例でも、1年5ヶ月の間に180回もの無届遅刻を繰り返した事例において、それまで無届遅刻により他の軽い懲戒処分をされたことがなかったというケースで、段階を踏むことなくなされた懲戒解雇は無効との判断がなされているものがあります。
③健康状態に問題がある場合
健康状態に問題があり、長期にわたって働くことが困難もしくは不可能となる場合には、労働契約を継続しがたいやむをえない事由があるとして普通解雇が認められる場合があります。
しかし、いきなり解雇とするとあとで無効と判断される可能性があります。就業規則等において、傷病休職制度が定められている場合、将来回復する可能性が全くなかったり、定められた休職期間では回復の見込みが乏しい長期の療養を要する病気であったりする場合を除いて、これらの制度を利用してまずは健康状態の回復を待つほうが無難でしょう。
なお、労働基準法においては、労働者が業務上負傷したり、疾病にかかったりした場合、療養のため休業する期間及びその後の30日間は、解雇はできないとされていますので、この規定に違反しないようにすることも必要です。
また、病気等により体力が低下した場合でも、より軽作業で済むような業務を準備できるのであれば、そこに配置転換等を行うなど、雇用を継続する努力をすることも必要とされます。
④社員が破産した場合
従業員が破産など経済的な問題を抱えている場合、解雇することができるでしょうか。結論からいうと、このような理由での解雇は許されません。
従業員個人の破産は、あくまで従業員のプライベートの問題にすぎず、従業員が会社に提供する労務の内容には何ら影響を与えることはないと考えられるからです。
したがって、多額の債務があるとか、破産の申立てをしたというような事情だけでは、社員を解雇することは許されません。
では、会社に対し、サラ金業者などから電話がかかってきた場合はどうでしょうか。
確かに、従業員のプライベートの問題で電話がかかってくるのは、会社としては迷惑なことですが、そのような取立て行為を行うサラ金業者のモラルことが問われるべきであり、このことをもって従業員を解雇しても、争われればその解雇は無効とならざるをえないでしょう。同様に、従業員の給料が差し押さえをうけたとしても、解雇が許されることはありえないので、冷静な対応が必要です。
もちろん、経済的な問題を抱えた従業員について、直接お金を扱うような部署においておくことに不安があることは否定できません。しかし、このような不安は配置転換をするなどして、直接お金を扱わない仕事を担当してもらえばすむ問題ですので、解雇を正当化する理由とはなりえません。
不当解雇の効果
解雇につき正当な理由はなかったものと判断された場合、その解雇は無効となります。つまり、被解雇者との雇用契約は解雇通告後もそのまま継続しているということになるのです。
よって、後々、被解雇者が会社に対し解雇の無効を主張して訴えた場合、解雇されなければ得られたであろう賃金を支払う義務が生じたり、被解雇者の職場復帰を命じられたりするおそれがあります。1年前に解雇したにもかかわらず、突然1年分の賃金を一度に請求されるなどということにもなりかねません。
また、被解雇者には会社内に友人、知人がいる場合が多いでしょうから、会社内の雰囲気や士気も芳しくないものになるおそれがあります。被解雇者が、会社に一方的に不当に解雇されたなどと声高に主張し、それが現在も働いている従業員の耳に入ることは、他の従業員が会社に対する不信感や嫌悪感を抱くきっかけとなるでしょう。
さらに、解雇が違法とされた場合、このような解雇をされたことに対する慰謝料請求もなされる可能性があります。
よって、社員を解雇する際には極めて慎重に行わなければなりません。
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