給料が高額の従業員を中途採用する場合、人材紹介会社に支払う紹介料も高額になりますが、このようにして採用した従業員がすぐにやめてしまったのでは困ります。今回は、退職を防ぐための法的、実際的な方法について考えてみました。

1 はじめに

会社の業績があまりよくない場合に、外部のスペシャリストに頼ろうとすることがあります。例えば、営業成績がよくない場合に、社外から営業のスペシャリストを募集し、営業部長にするということがあります。

このような場合、人材紹介会社に人材の紹介を依頼することが多いと思いますが、営業部長の給料は高額なので、人材紹介料も高額になり、就職後すぐに辞められた場合、会社にとって大きな痛手になります。このような事態に対処するために、どのような方法が考えられるでしょうか。

2 紹介料の返金条項

  人材紹介会社と契約する場合、ほとんどのケースで、早期退職時の紹介料返還条項が定められています。

  例えば、次のような定めです。

① 入社から1ヶ月以内に退職した場合 紹介料の80%

② 入社から3ヶ月以内に退職した場合 紹介料の50%

③ 入社から6ヶ月以内に退職した場合 紹介料の30%

この返還率は人材紹介会社によって違いますので、契約書にある返還の期間と返還率をよくみて、営業部長という高額な給料をもらう人を採用するのですから、できるだけ長い期間にしてもらう、返還率もできるだけ高くしてもらうというように交渉することが考えられます。

例えば、上記は6ヶ月までですが、1年までにしてもらう、また、返還率も上記より高くしてもらうという方向で、人材紹介会社と交渉することが考えられます、

3 有期の雇用契約

 ⑴ やむを得ない事由

雇用期間の定めがない場合、従業員はいつでも退職の申入れをすることができ、この場合、雇用契約は、申し入れの日から2週間を経過することによって終了するとされています。つまり、従業員は2週間待つことによりいつでも退職できることになります。

   この点、雇用期間を3年とする有期雇用契約を結んだ場合、従業員がこの3年の期間内に退職するには、「やむを得ない事由」が必要になるので、従業員が退職するのをある程度防ぐことができます。

   ※ 労働基準法14条1項の規定により、3年を超える期間について労働契約を締結してはならないとされているので、3年が上限になります。

   ただし、上記にように「やむを得ない事由」がある場合は、退職することができるので、3年の間必ず勤務させることができるというわけではありません。

    ※ 「やむを得ない事由」として考えられるのは、労働者の負傷・疾病による就労不能、近親者の介護の必要など家庭事情の急激な変動、労働条件が入社時の説明と異なる、セクハラ・パワハラがある、危険作業に対する安全配慮がされていないなどがあります。

 ⑵ 実際上の問題点

   ただ、このように期間を決めた場合、次のような実際上の問題が発生する場合があります。

  ア モチベーションや柔軟性の低下

有期雇用契約では、「終わりが見えている」ため、労働者が中長期のビジョンを持ちにくくなることがあります。

とくに営業部長のような管理職であれば、部下育成や中長期的な戦略に責任を持たせるには不向きな場合が出てきます。

  イ 優秀な人材が敬遠する可能性

優秀な人材ほど「正社員(無期契約)」を希望する傾向があり、3年の有期契約だと応募自体を敬遠される可能性もあります。

4 誓約書の取得

  例えば、採用した営業部長に「3年間は退職しない」という誓約書を書いてもらうことが考えられます。

  ただ、従業員の「退職の自由」は法的に強く保護されています。例えば、期間の定めがないときは、民法627条により、従業員は退職の申入れから2週間の経過によって退職することができますし、期間の定めがある民法628の場合でも、「やむを得ない事由」があれば期間途中であっても退職することができます。

  これらの点からすると、 誓約書による「退職の制限」は「公序良俗に反する契約」として無効とされる可能性が大です(民法90条)。

  誓約書を書いてもらったとしても、従業員が誓約書に反して退職した場合、誓約書違反を理由として損害賠償請求をすることは非常に難しいと考えられます。

  このような点からすると、誓約書を書いてもらうのはよいとしても、それによって退職を止める法的な効果があるのではなく、心理的な抑止力や責任感を意識させるためのものと考えるのが現実的かと思います。

5 勤続継続のインセンティブ

  このように考えてくると、退職を法的に阻止するのはなかなか難しいことが分かります。

  そこで、長期に渡って勤務するようインセンティブを与える方法として、下記のようなものが言われています。このようなインセンティブは、退職を法的に止めることが難しい中、実際上効果的なものと思います。

 ⑴ 金銭的インセンティブ

勤続ボーナス(一定年数勤務後に支給する特別報酬)

1年継続勤務で30万円

3年継続勤務で50万円

明文化するのであれば、契約書や社内規定にも記載可能です。

⑵ 退職金の加算(在職年数連動型)

勤続年数が増えるほど退職金が増える仕組みにする。

「3年以上在職すれば◯万円上乗せ」などにすると、退職の抑止力になります。

⑶ 裁量や権限の付与

経営会議参加、採用・評価権限などを一部委譲。

⑷ 柔軟な勤務制度

フレックスタイム、一部裁量労働制など。

他社に比べて働きやすさがあれば、転職意欲が下がります。

⑸ 定期面談・キャリア支援

孤立せずにキャリアや悩みを共有できる環境を作ります。経営者や上長との信頼関係は、離職防止に直結します。

⑹ 経営への参加

ビジョン共有、戦略会議への参加。組織づくりに「自分が必要とされている」という感覚を与えます。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
代表・弁護士 森田 茂夫
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