労災事故が発生した場合、会社はどのような措置をとるべきか

労災事故は、労働者がいる限り、発生する可能性があります。

労災事故を予防するため、日頃からいかに対策するかが重要ではありますが、ここでは労災事故が発生してしまった場合に、会社側が講じる必要のある措置を解説して参ります。

事故直後

①初期対応

まずは、被災者の救護と二次災害の防止を徹底します。

日頃から、想定される事故が起きた場合の対応を従業員各位に説明しておくことが重要です。

②医療機関対応

事故の程度にはよりますが、原則として、医療機関に罹るのが安心です。

身体の枢要部に対する怪我はもちろん、そうではなくても、事案を見極めて明らかに軽傷である場合を除き、医療機関に送る、医療機関への通院を指示する、被災者の病院への救急搬送など、適切な対応をしてください。

③家族対応

被災者の家族は誰よりも家族のことを心配します。

速やかに家族に被災の事実を伝え、医療機関を伝えるなどして、対応できるようにしてあげてください。

④労働基準監督署・警察への通報

労働基準監督署には後述のとおり報告する必要があります。また、事件性がある場合には捜査機関への通報も必要となる場合があります。

初期対応後

①実態解明と再発防止

次にすべきは、労災事故状況の把握と調査、現場の保全と証拠の収集です。

忘れてはならないのは、労災事故の原因調査を実施することです。

当該事故に対する対応を検討する必要もありますし、再発防止策を検討する必要もあります。そのため、初動、事故直後とまでは言いませんが、可能であれば同時並行して、労災事故が起きた状況についての具体的な事実の確認、カメラ映像や目撃者などの証言を可能な限り集めてください。

また、事件性がある可能性がある、機械に関わるなど、事故原因などについて検証する必要があれば、現場の保全もするようにしてください。

事実を把握したのちに、当該事実に対して、会社側として何か不足がなかったのかを複数の視点で検討し、再発防止策を速やかに講じる必要があります。

②保険手続

被災者との関係で特に重要なのは、労災保険の関係です。

決して、「労災に報告せず、会社で治療費を持とう」などと、労災隠しを考えないことです。労災隠しは犯罪となり、会社には制裁が待ち構えております。

具体的には、

・労災保険給付手続の実施(または支援)

 通常、給付の手続では、療養補償給付から申請することになります。

・労働基準監督署の調査への対応

 労基署は、調査を実施し、指導勧告等を行うことがあり、これに協力する必要があります。

・労働者死傷病報告の届出

 遅滞なく提出する必要があります(休業3日以内の場合を除く)。

 提出が必要な場合は、労働災害により労働者が死亡した場合、労働災害により労働者が休業した場合(死亡または休業4日以上の場合:様式23号。休業3日以内の場合:様式24号で、期限:四半期ごとに翌月末日まで)

また、任意保険会社への報告等もあります。

労災の上乗せ保険や、使用者賠償責任保険を利用する場合に必要です。

今後のための対応

再発防止対策の策定と実施

労働災害再発防止対策書の作成、場合によっては労基署に報告するなどします。

労働災害(安全衛生)に関する周知

改めて、労働安全衛生のための教育を実施することが重要です。

労災事故が生じたミス、エラーの原因を突き止め、そのようなミスやエラーが生じないように再発防止策を物的にも人的にも講じる必要があります。

これらの措置を適切に実施することで、被災者の救護と補償、法的責任の履行、および将来の事故防止を図ることができます。また、会社は労働者の安全配慮義務を負っているため、誠実に対応することが重要です。

労災保険の手続について

労災保険給付の手続きは、以下の流れで進められます。

  1. 労働災害の報告
    従業員は労働災害発生の状況を事業主に報告します。事業主は労働者死傷病報告を所轄の労働基準監督署に遅滞なく提出します。
  2. 医療機関の受診
    被災労働者は速やかに労災指定病院または労災保険の対象となる病院で診断を受けます。その際、業務上の災害であることを伝えます。
  3. 労災申請・請求手続き
    必要書類を添えて、労災保険の請求書を所轄の労働基準監督署に提出します。これは事業主を通じて、または従業員が直接提出できます。
  4. 労働基準監督署による審査
    労働基準監督署は提出された請求書と添付書類を審査し、必要に応じて事業主や医療機関に対して調査を行います。
  5. 支給決定通知の発行
    労働基準監督署は審査後に支給・不支給の決定を行い、請求者に通知します。
  6. 給付の支払
    支給決定通知に基づき、労災保険からの給付が行われます。療養補償給付は医療機関への直接払い、その他の給付は請求者の口座への振込みが一般的です。
  7.  

給付が決定されるまでの期間は、一般的に1〜3ヶ月程度ですが、場合によってはそれ以上の期間を要することがあります。

なお、労災保険給付の種類によって請求書の種類が異なります。例えば、療養補償給付の場合は「療養補償給付たる療養の給付請求書」、休業補償給付の場合は「休業補償給付支給請求書」を使用します。

会社は、被災した従業員が自分で労災の申請手続きをすることが難しい場合、適切に手続きを行うことができるように手助けすることが義務付けられています(助力義務)。

労災事故における弁護士の役割

弁護士の役割

会社側の弁護士は、以下の点で重要な役割を果たします。

・従業員の請求根拠の法的検討

弁護士は従業員からの請求を法的観点から精査し、不当な請求を拒否したり、適切な減額を行ったりすることができます。

・労働トラブル対応と労働基準監督署対応

弁護士は会社側に適切なアドバイスやサポートを提供し、法的リスクを最小限に抑えることができます。

・適切な賠償額の算定

会社に対する安全配慮義務違反の主張に備え、違反があるといえるのか、違反があるとしてもどの程度の損害があり、損害に対して被災者の落ち度(過失)はどの程度か、など、弁護士は過去の裁判例を参考に、適正な賠償額を算定します。

これにより、会社は公平で合理的な補償を提供することができます。

・交渉・訴訟の代理人サポート

労災に強い弁護士が会社との交渉を行うことで、適切な解決策を見出すことができます。また、代理人として矢面に立つことで、会社側の無用で膨大な労力を削減することに繋がります。

会社側は、労災事故発生時に迅速かつ適切な対応を取ることが重要です。

同時に、法的リスクを最小限に抑えるため、弁護士のサポートを受けることで、従業員の権利を尊重しつつ、会社の利益も守ることができます。

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所の特徴

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 時田 剛志
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