下請代金を「減額」することは下請法で禁止されています。この「減額」とは、下請代金の単価を下げること以外にも、支援、協賛、リベート等、いかなる名目であろうとも実質的に下請代金を減額することが対象となります。最新の勧告事例から解説します。

下請代金の減額の禁止とは

下請法で禁止されている11の行為のうち、「下請代金の支払遅延」及び「買いたたき」とともに違反事例が多い類型が、今回のテーマである「下請代金の減額」です。

下請法では、一度決めた下請代金の額を、下請事業者の責に帰すべき理由がないのに減額することが禁止されています(下請法4条1項3号)。

例えば、スーパーで食品を買う際に、レジで「今手持ちが厳しいから1割安くしてくれないか」などと申し向けても、お断りされることがほとんどではないかと思います。

一方、親事業者・下請事業者の関係性では、一般的に下請事業者の立場が弱く、親事業者の都合で「今年は予算が厳しいので、単価を1割下げて頂きます」などと要請されると、本来は減額の理由が無かったとしても、下請事業者が減額を受け入れざるを得ないことがあります。

特に下請事業者の中にはその事業内容や事業規模との関係で、特定の親事業者との取引への依存度が高いというところもありますが、そういった下請事業者の場合は、親事業者に無理を強いられたとしても泣き寝入りするしかないというようなこともあるのが実情です。

こういった背景事情から、下請法は「下請代金の減額」を禁止行為として明記し、親事業者にそういった行為をしないよう要請しているのです。

それでも無くならない「下請代金の減額」事例

そもそも下請法自体を知らないという事業者は稀と思いますが、下請法がこれだけ明確に「下請代金の減額の禁止」を掲げているにもかかわらず、公正取引委員会の公表している勧告事例では、毎年のように下請代金の減額の事例が出てきています。

それは何故なのか……おそらく様々な要因があるとは思いますし、はっきりとしたことは分かりませんが、今年に入って勧告が行われた以下の2つの事例から、もしかするとこういった勘違いがあるのではないか?という部分が見えてきましたので、事例とともにご紹介したいと思います。

事例1:㈱ビックカメラに対する勧告事例

令和7年2月28日、公正取引委員会は、株式会社ビックカメラ(以下「ビックカメラ」とします。)に対して、ビックカメラが「下請代金の減額の禁止」に違反したとして、勧告を行いました。

参照:公正取引委員会HP「株式会社ビックカメラに対する勧告について」

ビックカメラといえば、関東を中心に多数の店舗を展開している大手の家電量販店です。

大宮駅から弊所までの道のり(そごうの裏手)にも、1店舗、ビックカメラがあります。

ビックカメラは家電量販店ですから様々なメーカーの家電を取り扱っているわけですが、商品の中にはいわゆるPB(プライベートブランド)の商品もあります。

つまり、ビックカメラが商品を開発して、実際には家電メーカーに製造してもらうという構造です。

その製造を委託した下請代金について、委託後に後から代金を減額していたということです。

下請事業者51名に対して、減額した金額の総額は5億5746万8909円にものぼるということで、さすが事業規模が大きいこともあり、なかなかの違反規模となっています。

興味深いのは、その名目です。

今回ビックカメラが下請代金を減じる際には、

・拡売費
・実売助成費
・販売支援金
・原価リベート
・回収促進リベート
・在庫対策費
・一括仕入リベート
・展示品導入リベート
・展示品拡売費
・能登半島復興支援協賛
・納品時単価差異

…と、実に様々な名目を使っていたということです。

いかがでしょうか。記事をご覧になっている貴社でも、こういった名目でお金を徴収したり、支払うべき金額から差っ引いたりしていませんでしょうか。

あるいは親事業者から差し引いて振込まれている下請事業者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。

中には業界の慣習だとして、疑問を持たずに差し引いているようなものもあるかもしれません。

下請代金の減額が許されるのは、適法に受領拒否や返品ができる場合にその受領拒否・返品をした商品の分を減ずるときなど、「下請事業者の責めに帰すべき理由」があるときのみです。

また、代金や貸付金などの弁済期にある債権を、下請代金と相殺して、差額を振り込むことは「下請代金の減額」には当たりません。

振込手数料を下請事業者の負担とすることについて事前に書面で合意した場合に、その振込手数料分を下請事業者の負担とすることも(執筆時点では)「下請代金の減額」には当たらないとされています。

つまり逆に言えば、こういった例外的な場合以外は、どんな名目であろうとも「下請代金の減額の禁止」に反してしまうということです。

今回のビックカメラの件は、そのような例外的な事情が無かったということでしょう。

つまり、下請代金を差し引くことに合理的な理由が無かったということです。

なお、ビックカメラは、令和7年2月14日までに、上記の減額した金額を下請事業者に支払済みであるということでした。

総額5億円、下請事業者の数は51名ですから、ビックカメラはもちろん、下請事業者への影響もかなり大きい事件だったといえると思われます。

事例2:フクシマガリレイ㈱に対する勧告事例

もうひとつ、下請代金の減額禁止にかかわる事例を紹介します。

令和7年2月19日、公正取引委員会は、フクシマガリレイ株式会社(以下「フクシマガリレイ」とします。)に対して、フクシマガリレイが「下請代金の減額の禁止」に違反したとして、勧告を行いました(「不当な経済上の利益の提供要請の禁止」の点は本記事では省略します。)。

参照:公正取引委員会HP「フクシマガリレイ株式会社に対する勧告について」

フクシマガリレイは大阪市に本社を置くメーカーで、業務用の冷凍冷蔵庫や冷凍冷蔵ショーケース、温度管理に関わる店舗や厨房のシステムの設計・施工などを手掛けているとのことです。

地名の福島ではなく、創業者の福島氏がその名の由来のようですね。

さて、フクシマガリレイは、自社が販売する冷凍冷蔵庫などの部品について、下請事業者に製造委託をしていました。

フクシマガリレイは下請事業者との間で適時価格交渉を行っていたとのことですが、それとは別に本件では、書面で「価格協力」を要請しました。

この要請の理由は、単に自社の原価低減を図るためだったということです。

その後フクシマガリレイは、下請事業者計から、協力の可否、協力方法、協力期間などの回答を受け、その内容をもとに下請代金を減額(値引き)しました。

本件で特徴的なのは、「価格協力」要請に対して「応じる」と回答した下請事業者との間で減額について「合意」を取り付けていたとしても、下請法違反になるという点です。

話し合いをしても、合意しても、一度決まった下請代金を減額してしまったら下請法違反になるのです。

フクシマガリレイのやり方は、他の勧告事例と比べると慎重な姿勢が伺えますが、やはりだめなものはだめということですね。

また、フクシマガリレイは、「事務手数料」という名目で、下請代金を減じていました。この「事務手数料」は、電子受発注等に関わるシステムの使用料、フクシマガリレイが指定する納品伝票の作成費用であるとのことです。

上記ビックカメラの件でも見たとおり、名目の如何を問わず、下請事業者が負うべきでない負担について下請代金から差し引くことは、下請代金の減額に当たります。

上記のシステムの詳細は分かりませんが、例えば3条書面(契約書、発注書など)を作成して交付するために必要なシステムということであれば、3条書面交付は親事業者であるフクシマガリレイの義務なのですから、その経費を下請事業者に負担させることは理由が無いことだと考えられます。

また、納品伝票も、フクシマガリレイ側が指定しているということですから、その指定によって生じる経費を下請事業者に負担させるのも合理的ではありません。

したがって、これを下請代金から差し引くことはできず、差し引いてしまったフクシマガリレイは下請代金の減額の禁止に当たるということになります。

なお、フクシマガリレイは、令和7年2月5日までに、下請事業者に対して、減額した金額等をすでに支払っているということです。

事例から見えてくる「勘違い」

以上2つの事例から、下請代金の減額について、一般に2つの「勘違い」があるのではないかという推測ができます。

× 合意があればOK

ひとつは「合意があれば下請代金を減じても良い」という勘違いです。

契約締結や契約内容も合意で決まるのであるから、下請代金の減額も合意で決めても良いではないか、お互いに了承しているのに何が悪いのか、という感覚はあり得るところかもしれません。

しかしながら、そもそも下請法が定められた背景事情は、乱暴に言えば「下請事業者は親事業者に逆らえない」というところにあります。

そのため、極端に言えば、親事業者に言われたことに下請事業者が合意したり応じたりしたとしても、それは下請事業者が逆らえなかっただけである、と下請法は考えるわけです。

「下請代金の減額」は、一度決まった下請代金の額を減じることです。

一度は合意して決まっていたものを、後から覆すということですから、言い過ぎかもしれませんが、これは異常事態です。

そんな状況を引き起こすのは親事業者のわがままのせいではないか、と下請法は切り分けて禁止しているということになります。

下請法の考え方はある意味で乱暴、画一的、融通が利かないというところがありますが、これは、迅速に下請法違反を認定して是正させるという目的のためには致し方が無いところかと思われます。

× 慣習だからOK

特にビックカメラの勧告事例では、さまざまな名目での減額がありました。

一定金額、あるいは一定の率を乗じた金額について、○○の名目で割引をするというのは○○業界では一般的なことだ、のような話を聞くこともあります。

慣習というのは、確かに過去から積み上げられてきた実績(ある意味では秩序とも言えるかもしれません。)ですから、これに従うことには一定の意義があるとは思います。

しかしながら、「今」その慣習が正しいのか、意味があるのか、時代に即しているのかというのは、これも常に問われるべきことではないでしょうか。

下請法も、法文そのものや、公正取引委員会の解釈(運用基準)を随時修正して、時代に即して公正な取引を実現しようとしています。

その中では、今までの商慣習にも一定の配慮を行っており、これを改める必要がある場合には、徐々に対応できるように取り計らっています(例えば、手形サイトの短縮は相当の年月をかけて徐々に短縮され、都度周知がなされてきました。その最終形として、今後、手形での下請代金の支払いが禁止されようとしています。)。

下請法によって、慣習が公正な取引を阻害していると判断される場合には、その慣習は、やめるべき段階に来てしまっているのではないでしょうか。

「慣習だから」と漫然と行わず、一度立ち止まって検討する必要があると思われます。

まとめ

以上、最新の勧告事例を交えて「下請代金の減額の禁止」について検討しました。

上記のとおり、合意があっても、慣習であっても、どんな名目であっても、「下請代金の減額」は禁止されています。

何か振込むべき金額を差し引く際には、ぜひ「これは下請代金の減額に当たらないか」ということを検討して頂ければと思います。

親事業者も下請事業者も下請取引の適正化に取り組んでいきましょう。

なお、「下請代金の減額」に当たるその他のケースについては、下記の記事もご参照ください。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 木村 綾菜
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