当事務所では、法人破産の相談に来所された会社法人代表者の方から、事業の内容、負債の状況、資金繰りの事情をお聞きします。その際、ご持参いただく資料として、直近2年から3年分の決算書、確定申告書を持参するようにご案内しています。

そして、代表者からうかがった事情では、やはり、会社法人においては自己破産によるほかないとの判断に至った場合、会社法人の事業の廃止時期などを協議確認し、ご依頼いただき、各債権者に、会社法人の破産申立等の債務整理をする旨の受任通知を発します。

受任通知を発する相手方としての債権者は、ご依頼時に提供を受けた債権者一覧から、同時ないし随時、発送し、債権調査をします。

受任前後の、会社代表者との打合せにおいて、決算書上、代表者や経営陣からの会社に対する貸付があることが判明することがあります。

破産申立においては、債権者をもれなく網羅し、会社の負債総額を明らかにするために、破産申立時の債権者一覧表には、会社代表者、会社役員などの経営陣の貸付金も全額貸付債権として、記載しています。

なお、他の債権者に対する支払いを停止することにより、会社の資金に一時的に余裕が出たとしても、会社代表者等の貸付金の対する会社からの返済は、他の債権者に対する関係で、偏頗不公平な弁済となり、違法です。

これは、破産手続における破産管財人による否認権対象の弁済となりますので、本テーマとは異なります。

1 会社代表者など経営者一族の、会社への貸付金について

(1)会社に対する経営者の貸付金の存在

会社法人を破産させることとした場合に、この会社の代表者を含む経営者一族の方が、その会社の事業資金・運転資金として、自らの資金を貸し付けていたなどの理由で、会社に対して多額の債権を有していることがあります。

(2)会社に対する経営者・経営陣の貸付金の性質

破産を予定する会社に対する貸し付けを有する会社代表者を含む経営者一族ないし経営陣の方々の有する貸付金は、形式上は、会社に対する債権者に該当します。

よって、この会社の破産手続において、破産債権者として処遇されれば、この破産した会社の資産(破産財団)から、配当を受ける権利を有しているといえます。

(3)破産会社経営者である代表者、経営陣の経営責任

他の債権者からすれば、自らの会社を倒産させ、取引先に多大な迷惑・損失を与えていながら、破産会社の資産に対して、配当を要求することは不当・不相当ではないか、会社を倒産させた経営責任を取ってもらい、配当を受けることは辞退するのが当然であるとの思い、意見が出ることは想像に難くありません。

(4)破産法上での取り扱い

現行破産法においては、破産会社の代表者であるからとして、また、破産会社の経営者一族であるからとして、これらの方々の貸付金である破産債権を配当手続から除外できる(除外する)という規定はありません。

現行破産法の立法に際して、民事再生法や会社更生法の規定に類似した規定を設け、この経営陣の貸付金などの破産債権を一般破産債権に劣後する、劣後的破産債権とする規定を設けることが検討されましたが、立案には至っておりませんでした。

2 破産会社を経営していた代表者や経営陣の会社への貸付金債権などの劣後化

(1)破産債権の劣後化

破産した会社に対する債権者の有する債権は、その性質により、財団債権、破産債権とされ、破産債権においては、優先的破産債権、一般の破産債権、劣後的破産債権の順位で配当を受けることになります。

この破産債権とは、破産者に足しうる破産手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権であって、財団債権に該当しないものをいいます。

金融機関などからの借り入れ、取引先の買掛金、外注費や、会社の営業上の債権の多くが、この破産債権に該当するのです。

破産債権は、破産手続の中で、破産管財人が管理・換価した破産者(破産会社)の財産(これを「破産財団」といいます。)から、配当手続よって、その債権額に比例して弁済を受けることになります。

破産した会社の代表者・経営者の会社への貸付金などが、破産債権に該当するとしても、それを一般の破産債権の配当の後に残余の財産がある場合に配当を受けることができるとする、破産債権として劣後化出来ないか、破産債権を当該債権者の意思にかかわらず、劣後的破産債権とすることができないかという問題です。

(2)民事再生手続及び会社更生手続の場合

これらの手続の場合には、「衡平を害しない場合」(民事再生法155条1項但書、会社更生法168条1項但書)には、特定の債権者に対する不平等な扱いが明文で許容されています。

これらの、いわゆる「再建型手続」においては、この「衡平を害しない場合」の文言に該当するか否かという形で、特定債権の劣後化が問題となります。

しかし、破産法による法制化はなされなかったことは述べたとおりです。

(3)会社代表者の破産債権の届出辞退、届出の取下げ

破産会社が破産に至る経緯、そして他の債権者の意向・意見を踏まえ、破産管財人が、破産会社の代表者や経営陣一族などに、会社に対する貸付金債権を放棄するよう、理解を求める行動をとることは一般によく見受けられます。

破産手続において、配当を受ける破産債権者となる為には、債権届出が必要ですが、破産会社に貸し付けた代表者、経営陣に、その債権の事実上放棄をし、債権届出をしていても、債権届の取下げをしてもらえば、配当から除かれるため、その他の債権者の配当額が増えます。

(4)破産管財人の戦略的異議

破産管財人は、破産会社の代表者や経営陣の会社に対する貸付金について、破産債権として届け出ない、届け出ている場合には取り下げてもらうという説得がかなわず、破産会社に対する貸付債権について、破産債権としての届出を行った場合、破産管財人は、この貸付金債権についての、全ての破産債権者間の実質的公平を図るため、信義則または権利の濫用として、債権調査期日において異議を述べることがあります。

当該破産債権について異議を述べることによって、その後は、破産裁判所における破産債権査定の手続、通常裁判所における破産債権確定訴訟の手続において、その当否を審理することになります。

3 破産会社への会社代表者などの貸付金の破産債権届出が信義則または権利の濫用の法理に照らして、違法となる場合

(1)具体的場合・事情による

どのような場合が、会社代表者などの貸付金債権の行使が信義則違反ないし権利濫用の法理に照らし、違法となるかは一概に言えません。

当該貸付当事者の、破産会社との関係、破産会社の事業経営に対する関与の仕方・程度などの事情を総合的に考慮し、判断されることになります。

(2)広島地裁福山支部平成10年3月6日の事例

① 破産債権者は、破産会社の連帯保証人であったこと。

この事件は、破産会社の借入について連帯保証していた会社が、保証債務の履行をしたことによって、事後求償権を取得しました。

この事後求償権の一部を破産債権として届け出ました。

破産管財人及び一部の一般破産債権者が異議を述べたため、事後求償権を届け出た破産債権者が、破産債権確定訴訟を提起したという事案です。

② 破産債権者は破産会社の経営全般を管理支配していたという事情

この破産債権を届け出た債権者は、破産会社の経営全般を管理支配していたという事情がありました。

③ 破産管財人の主張その1

破産管財人は、「当該破産債権は劣後化されるべきである。」と主張しました。

その理由として、アメリカの判例法理である「ディープロック理論」を主張しました。

この「ディープロック理論」とは、アメリカにおいて、1948年の判決によって形成された法理で、課税負担回避などの目的で出資を減らし貸付を多くする「過小資本」などの場合に、衡平の原則により、特定債権の劣後化を認める判例理論です。これは、現在、連邦倒産法に条文化されています。

④ 破産管財人の主張その2

破産管財人は、本件債権者の破産債権届出は信義則に反するから認められるべきでないと主張しました。

⑤ 裁判所の判断

裁判所は下記判断しました。

まず、本債権届出について、アメリカ方の半里法理による「ディープロック理論」は主張自体が失当であるとして、その理論は根拠として認めませんでした。

ただ、この理論の背景にあるとされる「衡平(公平)の原理」は、我が国の破産手続にも該当するとしました。

形式的には、破産債権者に該当する者であったとしても、破産者との関係、破産者の事業経営に対する関与の仕方・程度などによっては、破産手続上他の一般破産債権者と平等の立場で破産財団から配当を受けるべく債権を行使することが信義則に反し許されない場合もあるというべきである(民法1条2項)としたのです。

管財人の主張も、その論旨全体からすると、この信義則違反を主張しているものと理解できるとしました。

そして、裁判所は、実体法上の信義則(民法1条2項)を根拠とする、破産債権の劣後化がありうると判断しました。

この具体的な事例の解決として、裁判所は、連帯保証し、事後求償権の一部を破産債権として届け出た会社は、破産会社との間には資本関係はないが、資金面で全面的な支援があったこと、この会社が破産会社の経営全般を管理支配してきたことなどを重視し、この破産債権者の届出債権の劣後化を肯定しました。

4 破産会社代表者も同時に破産手続開始決定を受けている場合

破産会社とともに、破産会社代表者も同時に破産手続を受けている場合には、同代表者の破産会社に対する貸付金債権等の破産債権は、会社代表者の破産財団を構成します。

会社代表者の破産事件での配当原資となりますことから、破産会社の管財人は、通常は、その届出に対して異議を述べる必要はないとされています。

5 まとめ

以上のように、破産会社の代表者や経営陣の方が、自らが経営していた破産会社に対する貸付金について、破産債権として届出で、配当要求をすべきかは複雑な判断を要します。

破産管財人が戦略的異議を述べ、それに対し、債権確定訴訟を提起してまで行うのかなどまで検討しなければなりません。

したがって、申立代理人とよく相談したうえで、対応することが肝要と考えます。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 榎本 誉
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