コンピュータープログラムが無許諾複製された場合、「無許諾複製をした者は、正規品の購入価格を賠償すべきである」とする判例があります。しかし、これらの判例は、著作権法114条2項を適用するにあたり、無許諾複製をした者が利益を得ていることを前提とするもので、学校法人、公益法人のような非営利法人の場合は、これらの判例の適用がないことが分かります。今回は、この点について述べてみたいと思います。
1 コンピュータープログラムを違法に複製した場合の損害額について判例
市販のコンピュータープログラムを使用している場合、何台までという制限があるのに関わらず、従業員がその制限を超えてプログラムを複製し、使用してしまうことがあります。
そのような場合、プログラムを作成した会社から通告文が来て、違法に複製されたプログラムの正規品購入価格を基準にした損害賠償をせよと主張されることがあります。例えば、そのプログラムが1つ200万円し、プログラムを複製して5台のパソコンで使用した場合、200万円×5台=1000万円の損害賠償をせよということになります。
この点、東京地裁平成13年5月16日判決は、「侵害行為によって得た被告(プログラムを違法に複製した会社)の利益の額は、無許諾複製したプログラムの数に正規品1個あたりの小売価格を乗じた額であると解するのが相当であり、原告(プログラムを作成した会社)の受けた損害額は、被告の得た利益と同額であると推定される」と述べています。
また、大阪地裁平成15年10月23日判決は、「原告(プログラムを作成した会社)が請求できる「受けるべき金銭の額に相当する額」は、本件プログラムの正規品購入価格と同額であると認めるのが相当である」と述べています。
これらの判決を見ると、プログラムを違法に複製した会社が損害賠償しなければならない金額は、無許諾複製したプログラムの数に正規品1個あたりの小売価格を乗じた額であるように思えます。
しかし、上記の東京地裁判決、大阪地裁判決のいずれも、単純に、無許諾複製したプログラムの数に正規品1個あたりの小売価格を乗じた額を損害額としたのではありません。
2 著作権法114条2項の推定
著作権法114条2項は、「著作権者が故意または過失によりその著作権を侵害した者に対し、その侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、著作権者が受けた損害の額と推定する」と規定しています。
つまり、著作権が侵害され、その結果、著作権者が受けた損害を証明するのが困難な場合において、著作権を侵害した者が利益を得ているときは、その利益の額を著作権者が受けた損害の額と考えてよいという意味です。
今回のように、プログラムを違法に複製し、パソコンで使用したとしても、それによって、プログラムを作成した会社がいくらの損害を被ったのかは分かりません。しかし、プログラムを違法に複製し、それによって違法に複製した会社が利益を得ている場合、その利益の額を算定することは可能と考えられますから、その利益の額を損害の額をして考えることを認めようという規定です。
3 東京地裁判決、大阪地裁判決の内容
ただ、プログラムを違法に複製した会社が得ている利益と言っても、プログラムを違法に複製したことによって、その会社がどれだけの利益を上げたかを算定することは、容易ではありません。
そこで、これらの判決は、
① 著作権の侵害を行った者が、資格試験の指導を業とする営利会社(東京地裁の場合)、コンピュータープログラムの講習を業とする営利会社(大阪地裁の場合)であり、また、無許諾複製によって利益を得ていることを前提に、
② 著作権法114条2項の「著作権を侵害した者が、侵害の行為によって利益を得ているときは、その利益の額を著作権者が受けた損害の額と推定する」との規定を適用するにあたり、
③ 「これらの営利会社が受けた利益の額は、無許諾複製したプログラムの数に正規品1個あたりの小売価格を乗じた額である」としたものです。
つまり、「無許諾複製をした者は、正規品の購入価格を賠償すべきである」という単純なものではなく、著作権法114条2項を適用する前提として、無許諾複製をした者が利益を得ているときは、その利益は正規品の小売価格を基準として算定するというものです。
4 非営利法人における損害の考え方
社会には、株式会社、有限会社のような営利法人のほかに、学校法人、医療法人、社会福祉法人、公益法人などの非営利法人がありますが、これらの非営利法人の従業員がプログラムを違法に複製したという場合、プログラムを作成した会社は、上記の判例を根拠にして、「無許諾複製をした者は、正規品の購入価格を賠償すべきであるから、違法複製したパソコンの台数に正規品の購入価格を掛けた金額を、損害賠償金として支払うべきである」ということができるでしょうか。
答えは、そのように言うことはできないということになります。
つまり、3で述べたように、上記の東京地裁、大阪地裁の判例は、著作権法114条2項を適用する前提として、無許諾複製をした者が利益を得ているときは、その利益は正規品の小売価格を基準として算定するというものであって、上記のような非営利法人の場合は、そもそも利益を得ていないのですから、著作権法114条2項は適用されず、上記の判例の適用もないということになります。
損害額が、無許諾複製したプログラムの数に正規品1個あたりの小売価格を乗じた額であるとすると、しばしば損害額が非常に大きなものになります。非営利法人の場合、このような請求を受けたときは、その請求の内容をよく検討した方がよいと思います。
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