紛争の内容
自動車販売店は、顧客Aに新車を販売し、Aから代金全額が支払われました。
登録も済み、後は納車するばかりとなったものの、その段階でAと連絡がつかなくなり、A宅を何度も訪問するものの人が生活している気配がありません。近所の人によると、「Aさんは一人暮らしで、最近亡くなったようだ」とのこと。
この話が本当だとすると登録済みの新車に関する権利はAの相続人らに移転していることになりますが、販売店では相続人らを探知できないため、弁護士にご依頼いただくこととなりました。
交渉・調停・訴訟等の経過
まず、弁護士の方で、戸籍関係調査を行い(Aはやはり亡くなっていました)、Aの相続人ら(5名)を確定させました。
そのうえで、5名の相続人らに急ぎ通知書を送り、Aが生前に注文していた新車があるが、どうするかを検討してもらいました(誰か1名が相続して引き取るのか、あるいは、不要ということであれば合意解除のうえ返金とするのか等)。
検討の結果、相続人の1人であるBが引き取る意向を固めましたので、こちらで遺産分割協議書(自動車に関するもの)を用意してお送りし、5名全員に署名・押印していただきました。
本事例の結末
相続人Bに登録名義を変更したうえ、無事に新車を納車することができました。
本事例に学ぶこと
本件では第一順位の相続人が全員相続放棄しており、連絡を取った5名の相続人は生前のAとほとんど接点がなく、大変驚き、とまどっておられました。
また、引き取りを求める物が「車」(しかも、自分で好きな車種や色、オプションを選んだわけではない)ですので、簡単には承諾できかねるのもよく分かります。
本件では、悩んだ末にBが引き取りを決めてくれ、また、販売店のスタッフが「亡くなられたとはいえ、お客様の大切なお車だから」と納車待ちの新車を大切に保管し、万全の体制を組んで納車しましたので、Bも安心したのではないかと思います。
昨今、「高齢の方が新車を注文後、納車前に亡くなってしまう」といったケースも増えています。
家族(相続人)に関する情報がないと、誰に納車してよいのか分からず、何か月も新車を保管する事態になりかねませんので、お困りの販売店は一度弁護士にご相談下さい。
弁護士 田中智美