紛争の内容
自動車販売店A社は、顧客Bとの間で、1台2000万円相当の高級輸入車を販売する旨の契約を取り交わした。
Bは優良顧客からの紹介筋であり、経済的信用力も十分と判断したA社は、代金の支払いを受ける前に、B名義での登録を完了させ、納車の準備を進めていた。
ところが、Bからは約束の期日になっても入金がなく、Bからの要請に従ってその後何度も支払期限を延ばしたものの、結局、Bからは1円も入金されることはなかった。
そうこうするうちにBとの連絡が取れなくなり、A社のもとには、B名義に登録された新車がいつまでも納車できない状態で残されることとなってしまった。

交渉・調停・訴訟などの経過
A社の依頼を受け、まずは弁護士からBに対し、期限内に売買代金2000万円を支払うよう催告する内容証明郵便を発送した。Bはこれを受領したものの、一切支払いがなく、連絡もつかない状態に変わりはなく、本件売買契約はBの代金不払いを理由に解除された。
続いて、この車の登録名義をBからA社に戻すべく、速やかに訴訟を提起(訴訟では、いったんB名義に登録したことによって生じた、車の価値落ち分1000万円の損害賠償も併せて請求した)。
Bは訴状を受け取ったものの、裁判には出頭して来ず、A社側の請求を全面的に認める勝訴判決が言い渡された。

本事例の結末
A社は勝訴判決の確定を待って、無事に車の登録名義をBからA社に戻すことができた。
(価値落ち分の損害賠償については回収困難)

本事例に学ぶこと
優良顧客からの紹介ということで販売店側に油断があったのかもしれないが、代金の支払いを受ける前に車の登録を完了させてしまうことは大きなリスクを伴う行為であり、避けるべきである。
特に、本件のような高級輸入車の場合、登録名義を自社に戻せたとしても転売先が限られるため、被る経済的損失が膨らみやすく注意が必要である。

弁護士 田中智美