賃貸アパートの契約当事者である借主や貸主が死亡した場合、その賃貸関係はどうなるのでしょうか。死亡した契約当事者の相続人に対しては、どのようなことを請求でき、どのようなことを注意すべきでしょうか。いつ起こるか分からない死亡という出来事によって、契約にどのような影響が生じるのか解説していきます。
賃貸アパートの契約当事者が死亡したら、どのような対応が必要?
貸主(賃貸人)が死亡したとき
貸主の地位は相続の対象になるか?
賃貸借契約の要素として、貸主は借主に対し、
・賃料債権(家賃を請求する権利)
・使用収益させる義務
・必要な修繕を行う義務
を負っています。
これらの貸主としての権利及び義務は、いずれも相続の対象となります。
相続の対象となる、ということは、要するに、貸主が亡くなったとしても、その時点で当該契約が自動的に解約になってしまうということはなく、契約内容等も新しい貸主(相続人)と従来の借主との間にそのまま移転され、月額賃料や契約期間、未払い賃料を含む権利関係を含めて相続人が相続することになります。
貸主が死亡したら、借主側はまずは何をする必要がある?
このような相続による賃貸人の変更には、特に相手方である借主の同意等の特別な対応は必要ありません。
しかし、通常は貸主の地位を相続人が承継したことを明確にしておくために、借主に通知を出したり、相続人を貸主とする新たな契約書を作成しておく方がトラブルは少ないと言えるでしょう。
貸主が死亡したとき、賃料はどう支払ったらよい?
相続開始から貸主の相続人らが行うべき遺産分割が終了するまでの間、発生している賃料債権はどうしたらよいでしょうか。
実は、最高裁判所の判例により、この賃料債権は当該遺産(賃貸物件)とは別個の財産として、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得するものと判断されています(最高裁判所平成17年9月8日判決)。
そのため、借主としては、各相続人に相続分の割合ずつ賃料を支払わなければならないということになります。しかし、このような支払い方法は現実的ではありませんから、通常は、相続人間で代表を決めてもらい、その相続人代表に支払うことともあります。
また、相続人間の紛争が激しく、誰にどのように支払うべきか管理会社等に確認しても不明な場合には、供託をするなどして対応する必要があるかもしれません。
遺産分割協議が終わった後の賃料の支払い先について
遺産分割協議後は、賃貸物件を相続した相続人が新たな貸主となります。
そのため、遺産分割協議終了後には、新たな貸主に対して、賃料の支払いを行う必要があります。
借主(賃借人)が死亡したとき
借主の地位は相続の対象になるか?
建物の賃貸借契約を締結していた賃借人が死亡した場合、この賃借人が有していた借家権はどうなるでしょうか。
賃借人が一人で住んでいたというような場合は、この借家を利用する人間は誰もいなくなるわけですから、「当然に契約も終了する」ということであれば話は簡単です。
実は、借主の相続についても、貸主が死亡した際に相続人が賃料債権などを承継するのと同様の結果になります。つまり、借家権も財産権の一種であるため、相続の対象となってしまうのです。
借主が死亡したら、貸主側はまずは何をする必要がある?
借家権が相続されるということは、借主の相続人に対し、貸主は使用収益をさせたり、修繕請求に応じたりしなければならないということです。そこで、従前の契約のとおりのその後当該建物賃貸借契約を終了させるにしても、継続させるにしても、まずは相続人の有無を調査する必要があるのです。
相続人の調査について
相続人の調査方法
調査の方法ですが、具体的には、被相続人である賃借人の戸籍などを取得します。賃貸人は、賃料を払ってもらう等の意味で「当該被相続人の債権者」という立場にあることから、仮に賃借人と親族関係等になかったとしても、正当な理由がある第三者として住民票・戸籍の附票・戸籍等の書類を役所に交付請求することができます。
相続人が分かったら
相続人がいることが判明したら、まずはその相続人に連絡を試みます。相続人が賃貸借契約の継続を望まないようであれば、交渉により建物の明渡し(残置物の処分など)・原状回復をしてもらい、賃料等の清算をして、任意の賃貸借関係終了を目指すわけです。
相続人がいないことが分かったら
これに対して、相続人がいなかった場合、あるいは相続人全員が相続放棄をしたという場合、どのように対応すべきでしょうか。
日本の法律は、「自力救済の禁止」といって、たとえ賃料未納状態になっている賃貸物件だったとしても、賃貸人が、法律上の手続を経ずに、相手方の同意・協力なくして、実力で明渡し等を実現することは許されません。そうすると存在しない賃借人から、賃料は払ってもらえないのに、契約を解除して、建物の明渡しを受けることがいつまでもできないということになりそうです。このような不利益を解消するため、「相続財産清算人(法改正前の名称は「相続財産管理人」)あるいは「特別代理人」という法律上の特別な代理人制度があります。
相続財産清算人と特別代理人
相続財産清算人とは
前者の「相続財産清算人」は、相続人が存在するか、存在しないかが明らかでないとき(相続人全員が相続放棄をして,結果として相続する者がいなくなった場合も含まれます。)に家庭裁判所に選任してもらう、相続財産を管理・清算する人のことです。ただ、この管理の対象は問題になっている賃貸物件だけではなく、「相続財産全体」になってしまうため、この選任のためには費用も手間もかかり、一般的には、予納金だけで100万円ほどかかることが多いです。
特別代理人とは
これに対し後者の「特別代理人」は、問題になっている賃貸物件のことだけについて、スポット的に裁判所に訴訟等の法的手続に関して選任してもらう人のことです。対応する内容は限定的ですので、先ほど述べた相続財産清算人の場合よりも費用は10分の1程度で済むということが多いと思われます。
原則的には、相続財産に関する問題は、「相続財産清算人」の選任により解決することになるのですが、特別な事情があり、相続財産清算人の選任を待って問題解決するのは難しいというような場合は、相続財産に対して民事訴訟を提起しようとする者として、債権者である賃貸人が、特別代理人の選任を申し立てることができると考えられています。そして、賃貸借契約がいつまでも解除できず、建物の明渡しがなされず未納賃料が日々増大していくばかりというような事情は、上記のような特別な事情に当たるとされるケースに当たるといえることも多いようです。
以上のとおりですから、もし賃借人が亡くなり、相続人等も存在しないというような事案においては、特別代理人の選任により対応することを検討するのが良いと思われます。
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