マンション管理組合の頭を悩ます問題として、典型的なものが「区分所有者の管理費・修繕積立金(管理費等)の滞納」です。このコラムでは、そもそも管理費等の滞納が起きたときに、管理組合としてどのような措置がとれるかについて総論的な部分を解説します。
管理費等の滞納が起きたときにはどのような対応ができる?それぞれの方法の違いは?
区分所有者(マンションの所有者)が管理費・修繕積立金(以下「管理費等」といいます。)を滞納した場合、管理組合としてどのように対応していくべきでしょうか。滞納発生から回収までの流れについて、以下検討すべき方法を一つずつ見ていきたいと思います。
管理費等の滞納が出たときの対応・手続の流れ
大まかにいえば、督促→法的措置→回収ということになりますが、その督促の仕方や、法的措置の内容も様々あります。
督促の手続
1度管理費等の滞納が生じてしまうと、その区分所有者は次月以降も滞納をし続けてしまう可能性が高いでしょう。ただ、滞納者の中には、自分が滞納状態になっていることを自覚せず、うっかり支払い損ねていたという区分所有者もいますし、まずは通知を出してみるというのがよいでしょう。
通知の内容としては、滞納が問題となっているマンションの特定をし、いつからいつまでのどのような費用の滞納が、いくら生じているのか、遅延損害金等の発生等はないか、いつまでにどのように支払うべきか、ということなどを記載します。
管理委託をしている管理会社より、定期的に通知を出してもらっているというケースが多いと思われますが、管理会社から通知を複数回しても、何らの対応もせず、未納を続けるということであれば、管理会社もそれ以上の対応は難しいと思われます。そうなると、管理会社ではなく、管理組合の代理人として弁護士に依頼して同弁護士から通知を発送したり、それでも効果がないということであれば次の法的措置を検討すべきと思われます。
法的措置の例 区分所有法第7条に基づく、先取特権の実行
区分所有者が管理費等を支払わないという場合、その支払義務は特別な債務として、裁判等で債務名義(債権を法的に強制的に実現するための強制執行という手続をするために必要な文書のこと。判決書や和解調書、強制執行認諾文言付きの公正証書など。)を要せずに、区分所有権やその建物に備え付けた動産を目的物とする競売手続を申し立てることができます。これを、「区分所有法第7条に基づく先取特権の実行」と呼んでいます。
わざわざ裁判をするなどの必要がないので、非常に簡単にできそうにも思われますが、実際にはこの先取特権という権利に優先する債権が当該マンション等に存在する場合(たとえば住宅ローンの抵当権など)、その債権の回収が先取特権に勝ってしまうので、競売の買受可能価額がこの優先する債権等の見込額に不足する場合、この競売手続は「無剰余取消し」と呼ばれる取消をされてしまいます。
ですから、この手続が有効なのは、登記簿などで確認した結果、当該マンションに抵当権などがついていないということが確認できる場合、ということになります。
法的措置の例 管理費等請求訴訟
「管理費等を払ってもらいたい」ということを主張して、裁判所に訴訟を提起するというオーソドックスな方法です。上記の先取特権の実行は、訴訟等の法的手続を経ずに申立てられるのが魅力でしたが、回収の対象となるのはマンション等のみに限られていましたし、管理費等に優先するような債権がある場合は、手続が頓挫してしまう可能性がありました。
この管理費等請求訴訟で勝訴判決を得て、それに基づき強制執行手続をする場合、その回収のためにかかっていける対象は、マンション等だけに限られず、広く債務者(区分所有者)の有する財産一般となっています。
管理費等請求訴訟と一口にいっても、
(1)少額訴訟(訴額60万円以下の場合で利用可能な訴訟形態)
(2)通常訴訟(訴額に関わらず利用できる一般的な訴訟形態)
などがあります。
滞納管理費等の請求については、管理規約の中に「理事長は、理事会の決議により、訴訟その他の法的措置を講じることができる」との定めがあることが多いと思われます。このような規定があるのであれば、集会(総会)決議がなくとも、理事会の決議だけで理事長が訴訟提起可能です。
少額訴訟の場合は、管轄のある簡易裁判所において可能であり、原則として第1回の期日で審理が終結し、当該審理も証拠や証人はその場で取り調べられるものに限定されて判決も出されます。つまり、少額訴訟は非常に簡易で早期に手続が進められるという手続なのです。
滞納管理費等の回収方法について
「回収」と一口にいっても、どこから回収するのか、どのような手続で回収するのか、といった点に様々な特徴のある方法があります。
(1)通常の強制執行
一般法である民事執行法に基づく回収手続のことです。
これは、裁判所に対し、債務名義に基づいて申立をします。具体的な方法の例は以下のとおりです。
ア 動産執行
債務者の動産を差し押さえ,これを換価して,回収する手続です。
差押禁止動産というものもあり、例えば債務者の動産であっても、洗濯機やベッド、タンスや調理器具、冷蔵庫など、生活のために必要なものなどは差押ができないとされています。
イ 不動産強制競売
裁判所が債務者の不動産を売却し、その代金をもって債務者の債務の弁済に充てる手続です。
ウ 不動産の強制管理
債務者所有の不動産を換価することなく、その収益(賃料など)を裁判所の選任する管理人に収取させ、これを債務の弁済に充てる手続です。
エ 債権執行
債務者の第三債務者(債務者に対して債務を負っている者)に対する債権を差し押さえ、これを換価して弁済に充てる手続です。
典型的には、銀行預金などを差し押さえることが考えられます。ほかにも、債務者(区分所有者)が勤務しており、給与をもらっているということであれば、勤務先を第三債務者として、給与債権を差し押さえるということも可能です。
(2)区分所有法59条に基づく競売申立
区分所有法59条は、共同利益背反行為者である区分所有権と敷地利用権を競売できるという旨定めています。多額の管理費等を滞納されてしまうと、マンションの管理・維持のためには、管理費等の額を見直したり、修繕工事をするにも資金が足りないなど、マンション全体の問題となってしまいます。
そこで、このようなマンションの管理・維持に支障が出るほどの管理費等滞納行為を「共同利益背反行為」として捉え、区分所有法59条の競売を申し立てるということも、ケースによっては検討すべきといえるのです。
反面、これは申し立てられる側からすれば「区分所有権等の喪失」を意味しますから、非常に大きな影響を及ぼす手続といえます。
そこで、そもそもそのような競売を認めてもらうためには、以下のように厳しい要件が定められています。
ア 実体的要件
まず、問題となっている共同利益背反行為によって、マンションに多大なる悪影響が出ており、その他の方法ではマンション運営を維持することが難しい、というような状態となっていることが必要です。「その他の方法」というのは、民事上撮りうる競売請求の方法以外、という意味ですが、「その他の手続を全て実行し、不奏功になった」ということまでは不要です。
イ 手続的要件
通常の管理費等請求訴訟を提起する場合よりも、内部手続が複雑になっています。
具体的には、集会(総会)によって訴訟提起をする旨、管理者等に訴訟提起を授権する場合はその授権する旨の決議をとります。
そして、前者の訴訟提起に関しては、特別決議となっており、かつあらかじめその競売の対象となる区分所有者に対して弁明の機会を与える必要があります。
以上の厳しい要件を揃え、区分所有法59条に基づく「区分所有権競売請求事件」を提起し、「競売を申し立てることができる」という勝訴判決を得て、初めて競売の申立をすることができるようになります。
競売は、上記勝訴判決を得てから問題となっている区分所有権の所有者が譲渡などにより変更されると申立てができなくなってしまいますし、競売申立が認められた判決が確定してから6か月以内に申し立てる必要がありますので、それらの点にも注意が必要です。
この競売をすることによって、その競売で得たお金を滞納管理費等に充てたりできることはもちろんのこと、競落した人からの滞納管理費等を支払ってもらうという方法により、回収ができることになります。
既に説明しました「区分所有法第7条に基づく先取特権の実行」や「不動産強制競売」との一番の違いは、「無剰余取消し」という取消がないことです。つまり、たとえば当該専有部分に住宅ローンが残っており、競売の買受可能価額がこのローン残高にも満たないという場合であっても、取消はされずに競落してもらったあらたな取得者に区分所有者を変更することができる、という点です。
これによれば、管理費等を長年滞納するような不良区分所有者を、管理組合から強制的に追い出すことができますので、一時的な滞納ではなく、根本的な管理費滞納問題解決が必要であるという場合は、選択肢として積極的に検討すべきと思われます。
典型的な滞納管理費等回収のためのフローチャート
以上のような回収の方法を踏まえ、オーソドックスな滞納管理費等の解消までの流れは以下のとおりとなります。
特定の区分所有者の滞納発生
↓
督促の手続(支払催告書等の書面の交付、自宅訪問、内容証明郵便による通知の発送)
※この段階では、管理委託契約を結ぶ管理会社による対応も考えられます。
↓
法的措置の検討
①区分所有法7条の先取特権の実行
(管理費等を滞納する区分所有者の専有部分に住宅ローン等の抵当権がついていないなど、競売して回収が容易と考えられる場合)
②管理費等請求訴訟などによる債務名義取得
+
債権執行などの強制執行手続
※管理費等の滞納が発生している専有部分が、第三者に賃貸物件として使用・収益されている場合は、賃借人を第三債務者として賃料を差し押さえることも考えられます。
まとめ
以上のとおり、滞納管理費等の回収については、様々な方法がありえるところです。
具体的にどの手段をとるべきかという問題は、
・滞納管理費の額
・管理費等を滞納している区分所有者の資産や状況
・滞納が発生している専有部分等の状況(抵当権が付いているか 等)
・当該滞納によって、マンション管理にどのような影響が出ているか(共同利益背反行為とまで言えるレベルか)
・管理組合の状況(定足数の充足など必要な決議がとることが可能か 等)
といったことを総合して判断すべきかと思われます。
今回挙げた方法は、あくまでも一例ですので、具体的な案件によっては、裁判等に至らず交渉で進めるべき場合もありますし、早急に訴訟提起・競売等を検討すべき場合もあると思われます。
マンションの管理費等は、原則的には支払期限から5年で消滅時効にかかってしまう債権です。滞納したまま放置してしまうと、マンションの維持・管理に重大な影響を与えかねず、他の区分所有者の負担も重くせざるを得ない場合もあるでしょうから、なるべく早く解消することが重要です。
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