株式会社(法人)の代表取締役が、会社の自己破産を決意されましたが、社長ご自身が病気闘病中である事案がありました。法人破産の関連事件として、多額の連帯保証債務を負った代表者も自己破産する予定でしたが、誠に残念でありましたが、お亡くなりになる事案に遭遇したことがありました。法人の破産手続では、会社の事業をよく知る代表者(社長)に、会社の破産手続き終了まで手続に関与してもらいますし、破産法上も破産者の管財人などへの説明義務が規定されています(破産法40条1項3号)。このような破産会社代表者でもあり、また、ご自身も多額の負債を抱えている方が自己破産手続完了までに亡くなられてしまった場合、どうすべきなのか考えます。

1 会社(法人)の破産申立前に、会社代表者社長が亡くなった場合

(1)取締役の欠員が生じるか否か

① 新代表者の選任による方法

取締役の欠員を生じない場合、新代表者を選任してもらい、対応することになります。
新代表者の選任が可能であれば,会社内部で新代表取締役を選任して新代表者としての破産の申立てが可能です。
この場合の添付資料は,通常の会社の破産申立てと変わりはなく,新代表者の下での破産申立てに関する取締役議事録(会社法362条4項)を再度調整し、新代表者を表示した商業登記全部事項証明書(破規14条3項3号)が必要となります。

② 準自己破産申立による方法

新代表者の選任が困難である場合には,代表権のない取締役による破産の申立てをすることが可能です(いわゆる準自己破産申立て。破19条1項2号)。
実務上は,この準自己破産の申立ての例が多数を占めているようです。
この場合,取締役全員による申立てでなければ,破産手続開始の原因となる事実の疎明が必要となります(同条3項)。
もっとも,準自己破産申立てがあったとしても,法人代表者が不在であるという状況には変わりはありませんから,併せて破産裁判所に対して特別代理人の選任申立てをすることが必要になる場合があります(破13条,民訴法35条,37条)。
この場合,申立代理人は,管財人宛ての引継予納金とは別に,特別代理人の報酬分の金員を準備する必要があります。

③ 取締役の欠員の補充

取締役の欠員を生じる場合、株主総会で後任の取締役を選任してもらいます。
必要に応じて、定款変更を経ることもあります。
後任の取締役が代表者として、破産申立業務を続行します。

④ 一時代表取締役の選任

一時代表取締役の選任(会社法351条2項)を経て,自己破産申立てをすることも考えられます。手続費用や選任確定までの期間などの問題があります。
実例としては稀です。

(2)取締役の欠員を生じるも、後任の取締役を選任いただけない場合

残念ながら、会社(法人)の破産申立の代理行為を続行できません。よって、代理人弁護士は委任事務続行不能として、破産申立委任関係を終了とさせていただくことになります。

2 会社(法人)の破産申立後、会社代表者が亡くなった場合

(1)後任の取締役を選任するか否か

取締役の欠員を生ぜず、新代表者が定款上当然に代表者に就任すれば、特に法律上問題はないと考えられます。
他方、取締役の欠員が生じる場合には、やはり、正式には、株主総会で後任の取締役を選任してもらい、申し立てた破産手続に関与してもらうことになります。
その他は、上記1の(1)と同様に考えることができます。

(2)特別代理人選任は不可欠か

この場合,申立て自体に瑕疵はありません。
しかし、破産手続開始決定時に会社の代表者が欠けるということになります。
破産管財事件の多くは,申立てから概ね1〜2週間前後で破産手続開始決定がなされます。
その間に事実上,申立代理人と破産管財人候補者との打ち合わせや引継ぎがされるという実情に照らすと,特別代理人選任の申立での時間や費用をかける実益はありません。
そのため,申立て後,破産手続開始前に代表者が死亡しても破産裁判所から特別代理人の申立てを促されることはないのでないかと考えます。
ただし,破産裁判所から,死亡した代表者の代わりに,説明義務(破産法40条1項3号)を根拠に,平取締役に破産債権者集会への出頭を求められることが十分予想されます。
平取締役の協力を得ておくことが望ましいといえます。

(3)破産手続開始決定後会社代表者が亡くなった場合

破産手続開始決定により、当該会社(法人)の管理処分権は、破産管財人に専属することになります。よって、破産管財人の管理処分権で対応できるといえます。
申立代理人も、破産申立て準備中に、本法人の事情、破産に至るまでの経緯を聞き取り、報告しております。
よって、裁判所から、特別代理人の選任を促されることはないと考えらえます。事実、上記と同様の事案では特別代理人の選任申立てを促されませんでした。

3 (法人破産申立て後に、法人代表者の自己破産申立前に)法人代表者が死亡した場合

(1)法人代表者の自己破産申立事件について

当該代表者との個人自己破産申立の委任契約が終了します(民法653条1号)。
よって、依頼を受けていた弁護士は、法定相続人らへの連絡をします。
家庭裁判所での相続放棄などのアドバイスなどをするのが通常です。

(2)法人代表者の自己破産申立後、破産手続開始決定前に同申立人が死亡した場合

この問題については、改正破産法による整理がなされましたので、ご説明します。

① 破産手続の当然中断

(民訴法124条1項準用説。なお、条解破産法は中断・受継の問題は生じないとします)。

② 相続財産破算の続行申立て

相続人・相続債権者らが、相続財産破産の続行申立てを行う(破産法226条)と、直ちに、破産裁判所は、破産手続の続行決定がなされます。その後は、相続財産破産として、破産手続開始決定がなされます(破産法222条以下)。

③ 続行申立てがなされない場合

相続開始後1か月以内に、相続人・相続債権者らから続行申立がなされなければ、期間経過後に破産手続は、当然終了となります(破産法226条2項、3項)。

(3)同時廃止事案

さて、法人の自己破産と、その関連での法人代表者の自己破産事件は、管財事件として扱われるのが原則です。
そこで、法人破産とは関連しませんが、消費者破産などで、債権者に配当が見込まれる見るべき財産がない、破産手続きの開始決定と同時に、その終了が宣言決定)される同時廃止事案では、自己破産するのは、裁判所からの免責許可決定(法252条1項)の獲得を目指しています。
そのため、申立後に、申立人が死亡した場合、続行申立がなされることは、まず、あり得ないと考えられます。よって、続行申立期間の経過後に、当然終了となるのがほとんどのはずです。
免責許可決定がなされませんから、相続人らは、相続放棄を検討しなければなりません。

4 法人代表者の自己破産手続申立て後、破産手続開始決定後に破産者が死亡した場合

(1) 破産手続の当然続行

破産手続は、相続財産の破産手続として当然に続行されます(法227条)。

(2) 固定主義

従前の破産手続開始決定の時点、一旦、破産者の破産財団及び破産債権の範囲は確定している(固定主義)ことから、続行後の手続きにおいても、その範囲に変動はないと解されています。

(3) 説明義務の主体

破産手続が続行されることから、説明義務を負担する者が規定されています。
旧法では、相続人、相続人の代理人、相続財産管理人及び遺言執行者が規定されていました。改正の現行破産法では、これに、被相続人の代理人であった者が加えられました。
相続人であった者も説明義務を負います。これは、熟慮期間中に相続放棄をした相続人が該当します。

5 法人代表者の自己破産事件における、同人死亡後の免責手続の取扱い

(1) 免責手続の当然終了

破産者が死亡すると、係属している免責手続は当然に終了します。

(2) 法定相続人の対応

免責手続きの当然終了によると、法定相続人は限定承認あるいは相続放棄をしないと、相続債務について、固有財産から弁済する責任を負うことになります。

(3) 破産者でない相続人の免責手続きの申立権の有無

破産者でない相続人は、免責手続の申立てはできないと解されています(高松高裁平成8年5月15日決定)。
理由は以下のとおりです。
相続財産破産の「破産者」は、相続財産自体であると解されています(通説)。
この相続財産自体が、法人格なき財団として、破産能力を認め、破産手続の当事者と見ることになります。
そうしますと、破産者の相続人が、破産手続の当事者として免責を申し立てる余地がないことになります。
破産手続終結とともに、破産者たる相続財産は消滅することになるので、相続財産自体に免責に関する規定を適用する余地がありません。そもそも適用しても意味がないのです。

改正法(現行破産法)248条1項は、免責許可の申立ては「個人である債務者(破産手続きの開始決定後にあっては、破産者。)」と明文化されました。

(4) 免責申立後、債務者(破産者)が死亡した場合、相続人は免責手続の受継申立てができるか。

これは、免責許可申立は、破産手続申立て後、未だ破産手続開始決定がなされる前でも、同申立てができることから、免責許可申立手続の係属を観念できることから問題となります。
これについては、受継申立てはできないと解されています。
ちなみに、大阪地裁では、免責手続きは破産者の死亡により終了とする扱いとのことです。
その終了する時期、つまり、免責事件の終局日は、破産裁判所が破産者の死亡を認識した日となります。

6 まとめ

法人破産の申立てを決意し、そして、自らも自己破産申立を決意し、再出発を図ろうとした、代表取締役社長の急逝は、会社法人の破産法のもとでの清算業務に大きな影響を及ぼします。
すなわち、社長の急逝により、他の取締役が対応できれば格別、そうでない場合には、大株主である社長の相続人の方の協力も不可欠となります。しかし、社長の相続人らは、自らの財産を守るため、相続放棄も視野に入れますので、遺産である株主権を行使して、後任の取締役を選任するための臨時株主総会を開くなどはなかなか期待できません。
法人破産申立と自己破産申立を決意した会社代表者である社長が、偶発的な事故や病気で代表取締役が不在となる事態が発生することがあります。
このような場合でも、経験豊富な当事務所では、適切なアドバイス、対応は可能ですので、是非ともご相談ください。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 榎本 誉
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