下請法で禁止されている「買いたたき」の概要、「買いたたき」該当性の判断要素、「買いたたき」に当たる具体例にはどのようなものがあるか、令和4年における最新の動向についてなど、弁護士が分かりやすく解説します。

「買いたたき」は下請法で禁止されています

下請取引の公正化・下請事業者の利益保護のために、下請法では、親事業者の禁止事項を定めています。その中のひとつが「買いたたき」と呼ばれる類型の行為です。以下、詳しく解説していきます。

「買いたたき」とは

下請法が禁止している「買いたたき」とは、平たく言うと「下請代金の金額を決定する際に、親事業者は不当に安い金額を押し付けてはならない」ということです。
具体的には、下記の様に定められています。

下請代金支払遅延等防止法(下請法)
第4条1項5号
下請事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額を不当に定めること

ここでいう「通常支払われる対価」とは、同じような下請契約を同じ地域・同じ業種の他事業者と締結するとするならばいくらとなるか、といったような、いわゆる市場価格とか市価と言われるような金額のことを指します。
また、市場価格が算出できないような場合には、従来の取引価格や類似した内容の取引の価格を参考にすることもあります。
他の取引と比べた場合に、今回の取引だけが著しく低い下請代金となる場合には、「買いたたき」に当たり下請法違反となり得るということになります。

「買いたたき」が禁止されている理由は、親事業者と下請事業者の間にはどうしても力関係が生じてしまうところ、親事業者がその地位を利用して、下請事業者に「著しく低い下請代金」で契約をすることを押し付けたとすると、下請事業者の利益が損なわれてしまうことになるからです。
下請事業者は体力の少ない小さな企業であることも多いですから、「買いたたき」のようなことが許されてしまうと、経営が圧迫され立ち行かなくなる可能性があります。そのため、下請法では「買いたたき」が禁止されているのです。

「下請代金の減額」との違い

似たような親事業者の禁止事項として「下請代金の減額」というものがあります。
こちらは、一度決まった下請代金を後から減額する、といったものが該当します。
「買いたたき」の場合は、下請代金を決めるときに著しく安い金額を設定するといった行為が該当しますので、適用の場面が少し異なります。

「買いたたき」に該当するかどうかの判断要素

「買いたたき」に該当するか否かは、次のような要素を総合的に考慮して判断するとされています。

①「通常支払われる対価」と今回の取引の下請代金との差の大きさ
②下請代金の決定について、親事業者と下請事業者とが十分に話し合いをしたかどうかなど、対価の決定の方法・経緯
③差別的な契約内容になっていないかなど、決定された対価の内容
④下請事業者が取引内容を実現するのに必要な原材料・仕入れ・人件費・エネルギーなどのコストの価格の動向

したがって、仮に「通常支払われる対価」と下請代金にかなりの差があったとしても、例えば原材料費が大幅に安く済む特別な事情があるという場合には、親事業者と下請事業者が十分に話し合った上で、低い下請代金を設定したとしても、直ちに「買いたたき」に該当して下請法違反とはならないと考えられます。

「買いたたき」に該当する事例

それでは、どのような場合に「買いたたき」に該当するのでしょうか。
以下、具体例を見ていきましょう。

①大量発注を前提とした金額で、少量の発注をすること

特に製造委託の場面では、発注された個数・ロット数がある程度まとまった量に達すると、製造コストや輸送コストが下がるために、下請代金を低く抑えることが可能な場合があります。
そのため、例えば製品1000個を発注したときの1個当たりの単価と、10個を発注したときの1個当たりの単価が異なるということもよくあります。
このような場合に、1個とか10個などの少量しか発注しないにもかかわらず、1000個を発注したときの1個当たりの単価を用いて下請代金を決定すると、下請事業者にとっては、製造コスト等が勘案されていない、通常よりも低廉な下請代金となってしまいます。
そうすると「買いたたき」に該当する可能性があるということになります。
このほかにも、例えば継続的に月当たり1000個の量産品を発注していた下請事業者との間で、量産の契約が終了し、補給品として1個とか10個などの少量だけ発注するというような場面では、やはり製造コストなどが大幅に違ってくることもありますから、下請代金(単価)を従来の量産を前提とした価格に据え置くことは、「買いたたき」に該当する可能性があります。
大量発注を前提にした場合とそうではない場合に単価差が生じる場合には、実際に発注する個数・ロット数に応じた見積りをとって、適正な下請代金を設定するようにしましょう。

②短納期の発注なのにもかかわらず、通常納期の場合の下請代金とすること

通常の納期よりも短い納期での発注をする場合、ラインの増設や深夜労働・休日出勤などの対応が必要となるなど、下請事業者には通常よりも多くのコストが発生することがほとんどです。
それにもかかわらず、通常納期の場合と同じ下請代金とすることは、そのコスト増を勘案していない、低廉な下請代金を設定しているということになりますから、「買いたたき」に該当する可能性があります。

③親事業者が多頻度・小口納入を要望するにもかかわらず、そのための人件費・運送費などを下請代金に反映させないこと

親事業者側の都合で(例えば納入先の店舗の倉庫が小さいなど)、商品の納入を多頻度・小口化して欲しいという要望があることがあります。
しかしながら、その場合には、配送や出荷にかかる人件費・運送費が通常の場合と比べて多額になることがほとんどでしょう。
このような場合に、そのコスト増を全く勘案せず、通常の場合と同様の下請代金を設定することは、「買いたたき」に該当する可能性があります。

④当初の見積りよりも発注内容が増えたにもかかわらず、下請代金を当初見積りのまま据え置きにすること

当初はAという作業のみを下請事業者に発注していたところ、あとからBという作業も追加で発注するとなったときに、当初のAという作業のみを発注する前提で出されていた見積りのままの下請代金に据え置くことは、作業増に伴う下請事業者のコスト増を全く勘案しないものであるため、「買いたたき」に該当する可能性があります。

⑤一律に一定の比率で単価の引き下げを行うこと

親事業者から下請事業者に複数種類の製品を継続的に発注している場合、もしくは複数の下請事業者に対して製品を継続的に発注している場合に、そのいずれの発注についても一律に一定の比率での単価引き下げを要求して応じさせることは、「買いたたき」に該当する可能性があります。
こういった要求がなされる背景には、多くは親事業者側において、コストカットを企図している場合が多いかと思われます。
しかしながら、製品の種類が違えば、それぞれについて製造コスト、発注数、発注頻度、価格等の事情が異なるわけですし、下請事業者が異なるのであれば同様に発注に関わる事情が異なるはずです。
それにもかかわらず、一律に一定の比率での単価引き下げを行うことは、それらの事情を無視した、非合理で一方的な単価決定ということになり、「買いたたき」に当たる可能性があるのです。
そのため、単価の見直しをする際にも、一律に一定の比率を下げるといったような結論ありきの価格交渉をするのではなく、個々の事情に応じた単価設定をするようにしましょう。

⑥親事業者が、親事業者の都合によって、一方的に下請代金の金額を指定すること

親事業者において予算が決まっているために通常支払われる対価よりも著しく低い下請代金を一方的に指定したり、ある下請事業者との間で決めた単価が著しく低い下請代金であるにも関わらず他の下請事業者にも一方的に適用させたりといった、親事業者による一方的な単価指定については、「買いたたき」に該当する可能性があります。
そうとはいえ、予算が決まっているという場合には、その予算を示して発注を行うということもあるでしょう。この場合には、その予算内でできる発注内容はどのようなものかについて、下請事業者との間で十分協議をして、予算(=下請代金)と発注内容が釣り合うように調整をすることが必要となると考えられます。

⑦下請事業者のコスト増に対応せず下請代金を決めること

下請事業者におけるコスト増の要因は様々ありますが、特に昨今では、原材料価格の高騰、エネルギー価格の高騰、最低賃金の引き上げといった多くの要因により、下請事業者の工夫によってはどうにもならないコスト増の場面が増えています。
このような状況において、下請事業者がコスト増に対応した単価での見積りを出したり、単価の引き上げを求めたりした場合に、親事業者が一方的に従来通りの単価に据え置くことを決定する場合には、「買いたたき」に該当する可能性があります。実質的な値下げ強要に当たり得るからです。
まずは十分な協議を行って、通常よりも低廉な下請代金とならないように単価設定を行いましょう。

⑧知的財産権やノウハウの譲渡について対価を支払わないこと

情報成果物作成を委託した場合(映像や番組の作成など)にその著作権を譲渡させること、あるいは金型の納品にとどまらず下請事業者のノウハウが含まれる技術的な資料も譲渡させることなどについて、その著作権やノウハウの譲渡についての対価を全く考慮せずに下請代金を設定することは「買いたたき」に該当する可能性があります。
ここで求められているのは、譲渡についての対価を別途定めることではなく、下請契約全体として、著しく低廉な下請代金になっていないか、という観点です。
したがって、これらの譲渡を前提として、親事業者と下請事業者との間で十分な協議を行い、下請代金の金額を決定していくことが必要となります。

以上は「買いたたき」に当たり得る場合の具体例ですが、「買いたたき」に当たるかどうかの判断については、下請契約の内容やその契約交渉過程によって、様々な事情が考慮されることとなります。
具体的なご事情についてご質問がある場合には、是非、グリーンリーフ法律事務所の顧問弁護士サービスをご利用ください。

令和4年の最新の動向について

公正取引委員会は、令和4年3月30日の広報において、新たに「令和4年中小事業者等取引公正化推進アクションプラン」を策定したと発表しました。
その中では「下請法の執行強化」として、下請法上の「買いたたき」について、「労務費、原材料費、エネルギーコストの上昇を取引価格に反映しない取引が下請法上の『買いたたき』に該当するおそれがあることを明確化するため」に「下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準」の改正を行ったことが触れられています。
公正取引委員会HP
https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2022/mar/220330_kigyoutorihikika_01.html
昨今の世界情勢やコロナ禍の影響、最低賃金の引き上げ等の事情が、下請事業者への不当な「しわ寄せ」にならないよう、「買いたたき」に対する取り締まりの強化を進めていく方針のようです。
そのため、親事業者・下請事業者のいずれにおいても、下請法違反とならないよう、より一層適切な取引関係の構築を心掛けるようにしましょう。

下請法違反とならないために/「買いたたき」だと思ったら

「買いたたき」に当たらないようにするためには、まず何よりも親事業者と下請事業者の事前の十分な協議が大切になります。
その協議を介して、下請代金の金額決定に影響を与える様々な事情を考慮した合理的な算定方法を用いて下請代金を決定し、親事業者・下請事業者の双方が共存共栄して取引を続けていくことができる適切な取引関係を築くようにしましょう。
もし仮に、「買いたたき」に当たるのではないかと思われたときには、早急に取引内容の見直しを求めましょう。親事業者においても、下請事業者から下請契約の見直しを求められたときには、一蹴せずに、必要な検討を加えることが肝要です。

公正取引委員会では、下請法に関する相談を受け付けているようですが、当事者同士の話し合いで穏便に状況を改善したいという場合には、顧問弁護士への相談や顧問弁護士による対応が有効なことも多くあります。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 木村 綾菜
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