質問
下記区分所有法の条文に従った法的措置の場合、弁護士費用を相手方に請求することは可能でしょうか。
第57条(共同の利益に反する行為の停止等の請求)
第58条(使用禁止の請求)
第60条(占有者に対する引渡し請求)
回答
結論から申し上げますと、区分所有法第57条、58条、60条に基づく法的措置に関しては、原則として弁護士費用を被告に負担させることはできないと考えられます。
弁護士費用の請求を認容してもらうためには、問題となる被害が「債務不履行」ではなく、「不法行為」であることを要します。交通事故や傷害・器物損害などという「不法行為」には、「加害者」の悪質性及び「被害者」の落ち度の低さ、が共通点として見られます。「債務不履行」にも、「加害者(=約束を履行しない者)」は存在するものの、そもそもそのような者と契約をしたというリスクを被害者側が潜在的に有していたと見られることから、仮に債務不履行が生じたとしても、そのリスクが顕在化したに過ぎないとして、弁護士費用を被害者の自己負担とすることを原則としています。
例外は、規約等の約定によりその加害者と被害者との間において、事前に弁護士費用の負担を定めている場合、ということになります。
ただ、区分所有法上の法的措置に絡んで、例外的に弁護士費用を被告負担とすることを認めた裁判例としては、東京地方裁判所平成8年7月5日判決(区分所有法第57条の事案)があります。これは管理組合規約により犬の飼育を禁止しているにもかかわらず、この規定を知りながら再三にわたる飼育中止の要請を拒否し、犬を飼育し続けたという区分所有権者に対し、マンション管理組合が犬の飼育禁止及び同差止請求提起に伴う弁護士費用を請求したという事案でした。裁判所は同判決の中で、飼育禁止の規約があることを知悉しながら、マンション管理組合の要請を再三にわたり拒否し、犬を飼育し続け、訴訟を余儀なくされた行為を「不法行為」としております。