質問
大学と共同研究を実施しておりますが、過去にその共同研究に関わっていた同大学卒業生が起業し、共同研究に関係する技術の提案の申し入れがありました。同大学との共同研究契約書に秘密保持等の条項がありますが、この学生は共同研究に従事する者とはなっていません。但し、この学生と秘密保持契約を締結しています。
この学生(卒業生)に関して、大学との共同研究の成果における秘密保持契約は有効でしょうか。競合他社などへ共同研究の成果を提供することが、秘密保持契約により制約されていると考えてよろしいでしょうか。共同研究の従事者とはなっていませんが、実際に研究室の学生として関与しているわけですから、卒業後においても共同研究契約書が有効と考えられるのでしょうか。)
回答
まず、貴社と元学生との間の秘密保持契約書ですが、ここで保護される秘密情報とは、2条にあるように、
① 甲乙間の取引に関して、
② 甲から乙に開示される情報であり、
③ 甲が乙に対して、個別的に書面で秘密情報である旨を明示した情報、
の3つの条件を満たすものとなっています。
そうすると、貴社と大学との共同研究の成果は、この3つの条件を満たさず、この秘密保持契約は、共同研究の成果の利用を制約する根拠にはならないように思います。
次に、貴社と大学との共同研究契約書ですが、この5条3項によると、「各当事者は、研究協力者となる者に本契約を遵守させることができるよう、・・・その取扱いを別に定めておくものとする」となっています。今回の元学生は、研究協力者となると思うのですが、大学はこの元学生と、本契約を遵守するよう、取り扱いを別に定めていないのでしょうか。
もし何も定めていないとすると、この契約書をもとにして、元学生の行為を制約するのは難しいように思います。
ただ、この元学生は、大学の元学生ですから、その者を研究に従事させ、その後、この元学生が秘密情報を使っていることについて、たとえば、貴社が大学に損害賠償請求するようなことはあり得るかもしれません。
今後ですが、共同研究契約書に共同研究に従事するものとして、関与する学生を含めるというのは一つのアイデアと思いますが、その学生は、直接には、共同研究書に署名捺印しないのではないでしょうか。そうとすると、共同研究契約書をもう少し簡単にした契約書(秘密保持義務が中心のもの)を作り、甲側の者については甲とその者とで、乙側の者については乙とその者とで、それぞれ契約書の署名捺印しておくのがよいのではないでしょうか。その契約書には、たとえば学生については、卒業後3年間については、秘密保持義務を負うというように規定しておきます。